自動車の軽量化を加速する革新的『耐熱ダイカストマグネシウム合金 AJX931』の特性
本技術概要は、Manabu MIZUTANI, Katsuhito YOSHIDA, Nozomu KAWABE, and Seiji SAIKAWAによって執筆され、SEI TECHNICAL REVIEW (2019)に掲載された学術論文「Features and Vehicle Application of Heat Resistant Die Cast Magnesium Alloy」に基づいています。HPDC(ハイプレッシャーダイカスト)の技術専門家のために、株式会社CASTMANが分析・要約しました。


キーワード
- プライマリーキーワード: 耐熱ダイカストマグネシウム合金
- セカンダリーキーワード: クリープ耐性, 鋳造性, 軽量化, 自動車部品, AJX931, リサイクル性
エグゼクティブサマリー
- 課題: 従来のマグネシウム合金は自動車パワートレイン部品に必要な耐熱性が不足しており、既存の耐熱合金は鋳造性やリサイクル性に問題を抱えていました。
- 手法: 鋳造性や耐食性に優れるアルミニウムを9%含有させつつ、β相(Mg17Al12)の析出を抑制するためにカルシウムとストロンチウムを添加した、新しいMg-Al-Ca-Sr系合金(AJX931)を開発しました。
- 主要なブレークスルー: 新開発のAJX931合金は、希土類元素(RE)を含有するAE44合金に匹敵、あるいはそれを上回る優れた耐熱性、機械的強度、耐食性を持ちながら、良好な鋳造性とリサイクル性を両立させることに成功しました。
- 結論: AJX931は、これまで適用が難しかった高温環境の自動車パワートレイン部品へのマグネシウム合金の適用を可能にする、実用的で希土類元素フリーなソリューションを提供します。
課題:なぜこの研究がHPDC専門家にとって重要なのか
マグネシウム(Mg)は実用金属の中で最も軽量であり、自動車の軽量化に不可欠な材料です。しかし、汎用的なAZ91DやAM60といったマグネシウム合金は、120℃以上で著しく強度が低下するβ相(Mg17Al12)が析出するため、オイルパンやトランスミッションケースといった高温にさらされるパワートレイン部品への適用には耐熱性が不十分でした。
この課題を解決するため、これまでにも耐熱マグネシウム合金が開発されてきました。これらの合金は、アルミニウムの添加量を減らし、シリコン(Si)、希土類元素(RE)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)などを添加することで耐熱性を確保していました。しかし、その代償として、鋳造性の低下、高価な希土類元素の使用によるリサイクル性の悪化、カルシウムの多量添加による酸化物形成といった新たな問題に直面していました。HPDCの現場では、耐熱性を確保しつつ、量産性に不可欠な鋳造性、コスト、リサイクル性を高いレベルで満たす材料が強く求められていたのです。
アプローチ:その手法を解き明かす
本研究では、これらの従来課題を克服するため、新しい合金設計思想に基づき「AJX931」を開発しました。そのアプローチの核心は以下の通りです。
- 合金設計: 鋳造性、耐食性、室温強度に有効なアルミニウム(Al)を約9%と高位に維持。その上で、高温で強度低下の原因となるβ相の析出を抑制するため、Alと優先的に安定な化合物を形成するストロンチウム(Sr)を3.1%、カルシウム(Ca)を1.0%添加しました。
- 比較対象: 開発されたAJX931合金の特性を評価するため、既存の耐熱マグネシウム合金であるAS31(Mg-Al-Si系)、AE44(Mg-Al-RE系)、MRI153M(Mg-Al-Ca-Sr系)を比較対象としました。
- 評価方法:
- 試料作製: 型締力650tのコールドチャンバーダイカストマシンを使用し、全ての評価用合金を同一形状(図1参照)に鋳造しました。
- 耐熱性評価: 鋳造品のボス部にM10ボルトを締結し、150℃で300時間保持後の軸力残存率(BLR)を測定しました(図5参照)。
- 鋳造性評価: 10個の鋳造品の外観を検査し、鋳造割れの程度を点数化して評価しました。
- 機械的特性評価: 鋳造品から切り出した試験片(図9参照)を用いて、0.2%耐力を測定しました。
- 耐食性評価: 200時間の塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を実施し、外観を評価しました。
- リサイクル性評価: インゴットとダイカストスクラップを再溶解し、介在物量や溶湯の状態を評価しました。
ブレークスルー:主要な研究結果とデータ
発見1:希土類元素フリーでありながら、トップクラスの耐熱性と機械的強度を達成
AJX931は、希土類元素(RE)を含まないにもかかわらず、REを含むAE44合金に匹敵する、あるいはそれを凌駕する優れた特性を示しました。
- 耐熱性: 図6に示す軸力残存率(BLR)の評価において、AJX931は64%という高い値を記録しました。これはREを含むAE44の63%と同等であり、AS31(28%)やMRI153M(36%)を大幅に上回ります。これは、Al-Sr系およびAl-Ca系の安定した高温析出物が形成され、β相の析出が抑制されたことによります(図4参照)。
- 機械的強度: 図10に示す0.2%耐力の比較では、AJX931は156 MPaという最も高い値を示しました。これは、強度に寄与するアルミニウムを9%と高濃度で含有しているためであり、パワートレイン部品に求められる高い強度要件を満たします。
発見2:優れた鋳造性と耐食性の両立
耐熱性と強度の向上は、しばしば鋳造性や耐食性とのトレードオフになりますが、AJX931はこのバランスに優れています。
- 鋳造性: 図7の鋳造割れ評価において、AJX931の評価点は2.0点でした。これは、割れやすいMRI153M(11.5点)やAS31(6.7点)と比較して格段に優れており、最も良好だったAE44(0.3点)に迫る結果です。これは、AJX931が多共晶に近い組織を持ち、凝固収縮に対する湯流れ性が良好であるためと推察されます(図8参照)。
- 耐食性: 図11の塩水噴霧試験結果では、AJX931はAE44と比較してピッチング(孔食)の発生が少なく、より高い耐食性を示しました。これは実用上、十分なレベルの耐食性を有していることを示しています。
研究開発および製造現場への実用的な示唆
本研究結果は、ダイカスト製品に関わる各部門の専門家に、以下の実用的な知見を提供します。
- プロセスエンジニアへ: AJX931はアルミニウム含有量が9%と高いため、他の耐熱合金に比べて融点が30~40℃低くなります。これにより、溶解温度を700℃以下に保ちながらも100~110℃という高い過熱度を確保でき、優れた溶湯流動性を実現し、鋳造欠陥の低減に貢献する可能性があります。
- 品質管理チームへ: 本論文の図6で示された軸力残存率(BLR)のデータは、高温環境下で使用される部品の重要な品質保証指標となり得ます。また、図2、3、4に示されるように、ミクロ組織中に高温特性を劣化させるβ相が存在しないことを確認することが、重要な品質検査基準になります。
- 設計エンジニアへ: AJX931が示す156 MPaという高い0.2%耐力(図10)は、より軽量で堅牢な部品設計を可能にします。また、高価でリサイクルが困難な希土類元素を含まないため、環境規制やコストを重視する製品の材料選定において、有力な選択肢となります。
論文詳細
Features and Vehicle Application of Heat Resistant Die Cast Magnesium Alloy
1. 概要:
- 論文名: Features and Vehicle Application of Heat Resistant Die Cast Magnesium Alloy
- 著者: Manabu MIZUTANI, Katsuhito YOSHIDA, Nozomu KAWABE, and Seiji SAIKAWA
- 発表年: 2019
- 発表雑誌/学会: SEI TECHNICAL REVIEW NUMBER 88
- キーワード: creep-resistant, heat-resistant, magnesium alloy, die casting, weight reduction
2. 要旨:
世界初の高強度・高耐食性を有するAZ91合金板の開発成功以来、当社はモバイル電子機器の筐体などに使用されるAZ91合金板でマグネシウム合金事業を開始した。しかし、輸送車両部品への適用にはAZ91の特性では不十分であり、新しいMg合金の開発に着手した。最近、富山大学との共同研究を通じて、自動車のパワートレイン部品に適用可能な高温クリープ耐性を持つMg合金の開発に成功した。この新しい合金は、従来のクリープ耐性Mg合金の欠点であった低い鋳造性や劣るリサイクル性を克服している。本稿では、開発された合金の主要な特性を紹介する。これらは輸送車両部品への実用化に必要なものである。
3. 緒言:
マグネシウム(Mg)は、すべての実用構造用金属の中で最も軽い。その比重は1.8で、アルミニウム(Al)の2/3、鉄(Fe)の1/4である。特定の目的に合わせて様々な元素が添加されたマグネシウム合金が開発されてきた。代表的なマグネシウム合金には、高耐食性のAZ91Dや高強度のAM60、AM50がある。自動車分野では、これらの合金はその高い比強度と剛性を活かして、ステアリングホイールのコアやイグニッションロックの形成に使用されている。これらの製品は、マグネシウム合金の加工性の低さから、ほとんどが鋳造品である。製造には、大量生産に適し、急速冷却に比較的に効果的なダイカスト法が用いられる。 マグネシウム合金の使用は、オイルパンやトランスミッションケースなどの重いパワートレイン部品において、大幅な軽量化を達成することが期待されている。これらの部品には耐熱性が要求されるが、AZ91やAM60の耐熱性は低い。150℃の温度でこれらの合金はクリープ変形を起こし、締結ボルトの緩みにつながる。この問題のため、AZ91やAM60はパワートレイン部品には不向きである。AZ91とAM60の耐熱性が低いのは、β相析出物(Mg17Al12)が室温では高い強度を持つものの、120℃以上の温度で著しく強度が低下するためである。この課題の解決策として、アルミニウムの添加量を減らしてβ相の析出を抑制し、シリコン(Si)、希土類元素(RE)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)を単独または組み合わせて添加し、高温で安定な析出物を形成させる。これにより、耐熱マグネシウム合金が開発され、実用化されている。しかし、これらの合金には、鋳造性の悪さやリサイクルの難しさなど、克服すべきいくつかの課題があった。住友電気工業株式会社は、富山大学と共同で、最近、耐熱マグネシウム合金に関連する問題を克服した耐熱マグネシウム合金の開発に成功した。
4. 研究の概要:
研究トピックの背景:
自動車産業における軽量化の要求が高まる中、最も軽量な構造用金属であるマグネシウム合金の適用拡大が期待されている。特に、オイルパンやトランスミッションケースなどのパワートレイン部品への適用は軽量化効果が大きいが、これには高い耐熱性が不可欠である。
従来の研究状況:
汎用のAZ91やAM60合金は耐熱性が不足している。これを改善するために開発された既存の耐熱合金は、希土類元素(RE)の添加によるリサイクル性の悪化、カルシウム(Ca)の多量添加による酸化物形成、アルミニウム(Al)含有量の低減による鋳造性や室温強度の低下といった、一長一短の課題を抱えていた。
研究の目的:
本研究の目的は、従来の耐熱マグネシウム合金が持つ鋳造性、耐食性、リサイクル性の課題を克服し、同時に高い耐熱性を有する革新的なダイカスト用マグネシウム合金を開発し、その実用性を評価することである。
中核研究:
高い鋳造性や耐食性を維持するためにアルミニウム含有量を9%に設定し、高温で強度低下の原因となるβ相(Mg17Al12)の析出を抑制するためにカルシウム(Ca)とストロンチウム(Sr)を添加するという新しい合金設計思想に基づき、Mg-Al-Ca-Sr系の新合金「AJX931」を開発した。そして、このAJX931と既存の耐熱合金(AS31, AE44, MRI153M)について、耐熱性、鋳造性、機械的特性、耐食性、リサイクル性といった実用上重要な特性を網羅的に比較評価した。
5. 研究方法
研究デザイン:
新開発の耐熱マグネシウム合金AJX931の性能を、3種類の既存耐熱マグネシウム合金(AS31, AE44, MRI153M)と比較する実験的デザインを採用した。すべての合金は同一の条件下でダイカストされ、複数の評価項目についてその優位性を検証した。
データ収集と分析方法:
- 組織観察: 走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、X線回折(XRD)を用いて、合金のミクロ組織と析出物を同定した。
- 耐熱性評価: 150℃×300hの加熱条件下でのボルト軸力残存率(BLR)をひずみゲージ法で測定した。
- 鋳造性評価: 鋳造品10個の鋳造割れの発生状況を目視で確認し、割れの大きさに応じて点数化(3点、2点、1点)し、1個あたりの平均点を算出した。
- 機械的特性評価: 鋳造品から切り出した引張試験片を用いて、0.2%耐力を測定した。
- 耐食性評価: 200時間の塩水噴霧試験後の外観を写真で記録し、錆や腐食の状態を比較評価した。
- リサイクル性評価: 50kgのインゴットに50kgのスクラップを添加して再溶解し、溶湯からサンプリングした試料の介在物数を10倍の拡大鏡で計数した。また、溶解後のインゴットの外観を観察した。
研究トピックと範囲:
本研究は、自動車のパワートレイン部品への適用を想定した、ダイカスト用の新しい耐熱マグネシウム合金の開発に焦点を当てている。評価範囲は、耐熱性(クリープ耐性)、鋳造性(鋳造割れ)、機械的特性(0.2%耐力)、耐食性、リサイクル性といった、実用化に不可欠な特性を網羅している。
6. 主要な結果:
主要な結果:
- 新開発合金AJX931は、SEM、EDX、XRD分析により、意図した通りβ相(Mg17Al12)の析出が抑制され、代わりに耐熱性に寄与するAl-Sr系およびAl-Ca系の化合物が主として析出していることが確認された。(図2, 3, 4)
- 耐熱性評価(ボルト軸力残存率)において、AJX931は64%を示し、希土類元素を含むAE44(63%)と同等、AS31(28%)やMRI153M(36%)を大幅に上回る優れた性能を示した。(図6)
- 鋳造性評価(鋳造割れ)において、AJX931は2.0点と良好な結果を示し、AS31(6.7点)やMRI153M(11.5点)よりも大幅に優れていた。(図7)
- 機械的特性(0.2%耐力)において、AJX931は156 MPaと、比較した合金の中で最も高い値を示した。(図10)
- 耐食性評価(塩水噴霧試験)において、AJX931はAE44よりも優れた耐食性を示し、実用上問題ないレベルであることが確認された。(図11)
- リサイクル性評価において、AJX931はスクラップ添加・再溶解後の介在物量が少なく、大気中で溶解しても酸化・燃焼しにくいなど、取り扱い性に優れることが示された。(図12, 13)
図の名称リスト:
- Fig. 1. Die-cast sample shape
- Fig. 2. Microstructure of AJX931 die casting
- Fig. 3. FE-SEM-based EDX analysis of AJX931 die casting
- Fig. 4. XRD measurement of AJX931 die casting
- Fig. 5. Measurement method for remaining axial force
- Fig. 6. BLR of conventional heat-resistant alloys and newly developed alloy
- Fig. 7. Evaluation of castability for die casting (casting cracks)
- Fig. 8. Microstructures of die-cast alloys
- Fig. 9. Test specimen cut-out area and shape of tensile test specimen
- Fig. 10. 0.2% yield strength comparison of existing heat-resistant alloys and newly developed alloy
- Fig. 11. Exterior of samples subjected to 200 h salt spray testing
- Fig. 12. Evaluation results for amount of inclusions
- Fig. 13. Exterior of ingots cast from smelted molten metal




7. 結論:
住友電気工業は、革新的な耐熱マグネシウム合金AJX931の開発に成功した。既存の耐熱マグネシウム合金と比較して、AJX931は高い耐熱特性、優れた鋳造性、耐食性、および材料強度を有する。さらに、新開発の合金は構成元素として希土類元素(RE)を含まないため、リサイクルを容易にすると考えられる。我々はAJX931を、従来の耐熱マグネシウム合金に関する懸念への解決策と見なしている。この合金は輸送車両部品での使用に期待が寄せられている。今後の課題は、この新開発合金を車両で実用化することを目指し、その用途を探求することである。
8. 参考文献:
- (1) S. Kamado, Y. Kojima, Materia Japan, 38 (1999) 4
- (2) S. Saikawa, Journal of Japan Institute of Light Metals, 60 (2010) 11
- (3) S. Takeda, Materia Japan, 53 (2014) 12
- (4) I. Nakatsugawa, Materia Japan, 38 (1999) 4
- (5) H. Kawabata, N. Nishino, T. Aikawa, K. Otake, Y. Genma, Journal of Japan, 60 (2010) 11
- (6) The Japan Magnesium Association web site (2013)
専門家Q&A:技術者が抱く疑問に答える
Q1: なぜ新合金AJX931のアルミニウム含有量を、耐熱合金では一般的に避けられる9%という高い値に設定したのですか?
A1: 論文によれば、約9%のアルミニウム含有量は、鋳造性、耐食性、および室温強度を確保する上で効果的であるとされています。本研究の革新的な点は、この高いアルミニウム含有量を維持しつつ、高温で強度低下を引き起こすβ相(Mg17Al12)の析出をいかにして抑制するかでした。その解決策として、アルミニウムと優先的に結合するストロンチウム(3.1%)とカルシウム(1.0%)を添加し、β相の代わりに安定な高温化合物を形成させるというアプローチが取られました。
Q2: AJX931の鋳造割れ評価(図7)が、AE44よりわずかに劣る(評価点が高い)のはなぜですか?
A2: 論文では、AE44やAJX931のように共晶析出物が多い合金は、凝固収縮に対する湯の補給性(feedability)が向上し、割れが発生しにくいと考察されています。AJX931はAS31やMRI153Mに比べて格段に優れた耐割れ性を示していますが、AE44の組織(図8)が、この特定の試験形状において、より多共晶組成に近い挙動を示したため、わずかに優れた結果になった可能性が考えられます。
Q3: 希土類元素(RE)を含まないAJX931が、REを含むAE44と同等の耐熱性を達成できたメカニズムは何ですか?
A3: AJX931の優れた耐熱性は、SEM/EDXおよびXRD分析(図3、4)で確認された、耐熱性の高いAl-Sr系化合物(Al2Sr, Al4Sr)およびAl-Ca系化合物((Mg,Al)2Ca)の形成によるものです。これらの化合物が、AE44におけるAl-RE系析出物と同様の役割を果たし、結晶粒界などで高温時の変形を抑制します。これにより、有害なβ相を形成することなく、高い耐熱性を実現しています。
Q4: リサイクル性評価(図12)で、AJX931はスクラップ添加後や溶解後に介在物量がAE44より少なくなったのはなぜですか?
A4: 論文では、AJX931はリサイクル時に介在物の除去が容易になることが期待される、と述べられています。その直接的な理由は明記されていませんが、いくつかの要因が考えられます。一つは、AJX931に添加されているカルシウムが燃焼防止効果を持つため、再溶解時の酸化物(介在物の主因)の生成が抑制されることです。対照的に、AE44に含まれる希土類元素は非常に活性が高く、安定な酸化物を形成しやすいため、介在物として残りやすい可能性があります。
Q5: AJX931に添加されたカルシウム(Ca)とストロンチウム(Sr)は、それぞれどのような役割を担っているのですか?
A5: 論文の合金設計思想に基づくと、両元素は共通してアルミニウムと結合し、高温で安定な化合物を形成することでβ相の析出を抑制し、耐熱性を向上させる役割を担っています。カルシウムはAl2Caのような化合物を、ストロンチウムはAl2SrやAl4Srのような化合物を形成します。加えて、カルシウムには溶湯の燃焼を防止する効果があり、ストロンチウムは鋳造性を低下させる傾向があるものの、カルシウムとの組み合わせと適切な量(3.1%)に制御することで、全体の特性バランスを最適化しています。
結論:高品質と高生産性への道を拓く
本研究は、従来の耐熱ダイカストマグネシウム合金が抱えていた、耐熱性と鋳造性・リサイクル性のトレードオフという長年の課題を解決する、画期的な合金「AJX931」を提示しました。希土類元素フリーでありながらトップクラスの耐熱性と機械的強度を実現し、同時に優れた鋳造性と耐食性、リサイクル性を両立させたこの合金は、自動車のパワートレイン部品をはじめとする、より過酷な環境下でのマグネシウム合金の適用を大きく前進させる可能性を秘めています。
株式会社CASTMANでは、こうした最新の業界研究を応用し、お客様の生産性と品質の向上を支援することに全力を注いでいます。本稿で議論された課題がお客様の事業目標と合致する場合、これらの原理をいかにお客様の部品に実装できるか、ぜひ当社の技術チームにご相談ください。
著作権情報
- このコンテンツは、Manabu MIZUTANI氏らによる論文「Features and Vehicle Application of Heat Resistant Die Cast Magnesium Alloy」を基にした要約・分析です。
- 出典: https://www.sei.co.jp/technical-review/en/151/116.html (元論文へのリンク例)
本資料は情報提供のみを目的としています。無断での商業利用は禁じられています。 Copyright © 2025 CASTMAN. All rights reserved.