スチール金型からの脱却:アルカリ活性スラグ金型が拓く軽金属鋳造の未来
本技術概要は、[Janna Link氏、Alexander Wetzel氏、Sebastian Müller氏、Bernhard Middendorf氏]による学術論文「Ultra-high performance alkali-activated slag as a re-usable mold for light metal casting」に基づいています。掲載誌:[ce/papers in civil engineering] ([2023年])。


キーワード
- 主要キーワード: アルカリ活性スラグ金型
- 副次キーワード: 軽金属鋳造、超高性能コンクリート、耐熱性、アルミニウム鋳造、再利用可能金型
エグゼクティブサマリー
- 課題: 従来の軽金属鋳造で使用されるスチール金型は、金属腐食や水素混入による鋳造品質の低下という課題を抱えています。
- 手法: アルカリ活性スラグをベースとした超高性能コンクリート(AAM-UHPC)を用い、熱的に安定した再利用可能なミネラル金型を開発・評価しました。
- 主要なブレークスルー: 開発されたAAM-UHPC金型は、700℃を超える高温のアルミニウム溶湯による複数回の鋳造サイクルに耐え、爆裂的な破壊を起こさず、十分な鋳造品質を維持できることが実証されました。
- 結論: AAM-UHPC金型は、特に薄肉形状や小ロット生産において、従来のスチール金型に代わるコスト効率の高い選択肢となり、鋳造部品の品質向上に貢献する可能性を秘めています。
課題:なぜこの研究がHPDC専門家にとって重要なのか
軽金属、特にアルミニウムのダイカストは、自動車や航空宇宙産業において軽量化を実現するための重要な技術です。しかし、一般的に使用されるスチール金型には、解決すべきいくつかの問題点が存在します。
第一に、スチール金型は熱伝導率が高すぎるため、溶湯が急速に凝固してしまい、薄肉で複雑な形状の部品を製造する際には高い射出圧力が必要となります。第二に、金型と溶湯の焼き付きを防ぐために水性の離型剤が使用されますが、この水分がアルミニウムと反応して水素を発生させ、鋳巣(ガス欠陥)の原因となります。これにより、部品の機械的特性が低下し、不良率の増加と生産コストの上昇を招きます。さらに、アルミニウム溶湯とスチール金型の接触は、金型表面の金属腐食を引き起こし、鋳造品の表面品質を損なう原因ともなります。これらの課題は、高品質な鋳造部品を安定して生産する上での大きな障壁となっています。
アプローチ:研究手法の解明
本研究では、従来のスチール金型が持つ課題を克服するため、アルカリ活性スラグをベースとした超高性能コンクリート(AAM-UHPC)を用いた再利用可能なミネラル金型の開発と評価が行われました。
手法1:AAM-UHPC材料の配合設計 金型材料として、700℃以上の高温に耐えるための特殊な配合が設計されました。主要な原料として、高炉スラグ粉末とシリカフュームが使用され、これらを活性化させるためにカリウム水ガラスが用いられました。特筆すべきは、耐熱性を向上させるために再生セルロース繊維(RCファイバー)が0.4 Vol.-%添加された点です。この繊維は高温で分解・焼失し、材料内部に微細な空隙ネットワークを形成します。これにより、材料内部で発生する水蒸気圧を効果的に逃がし、高温下での爆裂的な破壊(スポーリング)を防ぎます。
手法2:金型の製造と鋳造実験 設計されたAAM-UHPCを用いて、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の型枠で鋳造用の金型を製造しました。製造された金型は、実際の鋳造プロセスでその性能を評価するため、Indutherm VC 650 V鋳造機にセットされました。実験では、金型を300℃に予熱した後、720℃に溶融したアルミニウム合金を3バールの圧力で鋳込みました。この鋳造サイクルを複数回繰り返し、金型の耐久性と再利用可能性を検証しました。
手法3:熱衝撃試験と材料分析 鋳造プロセスで金型が受ける急激な温度変化をシミュレートするため、室温の試験体を700℃に予熱したオーブンに直接投入する熱衝撃試験が実施されました。試験後の試験体の圧縮強度を測定し、熱負荷による材料の強度低下を定量的に評価しました。また、水銀圧入ポロシメトリー(MIP)や熱重量分析(TGA)を用いて、熱負荷前後の材料の細孔構造の変化や重量減少を分析し、高い耐熱性が発揮されるメカニズムを解明しました。
ブレークスルー:主要な研究結果とデータ
本研究により、AAM-UHPC金型の優れた耐熱性と鋳造用金型としての実用性が具体的なデータによって示されました。
発見1:高温熱衝撃後も実用的な強度を維持
AAM-UHPCは、7日間の養生後、136.6 N/mm²という非常に高い圧縮強度を示しました。さらに重要なのは、700℃の熱衝撃負荷を与えた後でも、22.6 N/mm²の圧縮強度を維持したことです。この値は、建設業界で使用される通常のコンクリートに匹敵する強度であり、高温にさらされた後も金型が構造的な完全性を保ち、破壊に至らないことを示しています。この結果は、AAM-UHPCが鋳造プロセスの過酷な熱サイクルに耐えうることを実証しています。
発見2:細孔構造の変化が爆裂的破壊を防ぐメカニズムを解明
水銀圧入ポロシメトリーによる分析(Figure 3)から、熱処理後のAAM-UHPCは細孔容積が大幅に増加することが明らかになりました。特に、直径2~20 µmの範囲の細孔が顕著に増加しており、これは配合に添加されたRCファイバーが高温で焼失し、微細なチャネルを形成したためです。このチャネルが、材料内部で発生した水蒸気を効率的に外部へ排出する経路となり、内部圧力の上昇を抑制し、爆裂的な破壊を防ぎます。また、熱重量分析(Figure 4a)では、最初の加熱で約15%の質量減少が見られますが、一度熱処理されたサンプルを再度加熱した場合(Figure 4b)、質量減少は1%未満でした。これは、材料中の水分が最初の加熱でほとんど除去され、その後の熱サイクルでは材料が非常に安定していることを示しており、再利用可能な金型としての適性を裏付けています。
研究開発および製造現場への実践的な示唆
本研究の結果は、鋳造プロセスの各担当者に具体的な改善のヒントを提供します。
- プロセスエンジニア向け: この研究は、AAM-UHPC金型の低い熱伝導率が溶湯の凝固を遅らせることを示唆しています。これにより、スチール金型では困難だった薄肉形状の部品を、より低い射出圧力で充填できる可能性があります。これは、設備の負荷軽減やエネルギーコストの削減に繋がるかもしれません。
- 品質管理チーム向け: 本論文のFigure 6は、鋳造サイクルを重ねることで金型表面に微細なクラックが発生することを示しています。これらの表面欠陥が鋳造品の表面品質に与える影響を監視することで、金型の交換時期を判断するための新しい品質基準を設けることができるかもしれません。
- 設計エンジニア向け: AAM-UHPC金型は、スチール金型よりも複雑な形状を低コストで製造できる可能性があります。この特性は、特に試作品や小ロット生産品の開発において、設計の自由度を高めることに貢献します。凝固挙動の違いを考慮した設計が、新たな付加価値を生み出す鍵となります。
論文詳細
Ultra-high performance alkali-activated slag as a re-usable mold for light metal casting
1. 概要:
- 論文名: Ultra-high performance alkali-activated slag as a re-usable mold for light metal casting
- 著者: Janna Link¹, Alexander Wetzel¹, Sebastian Müller², Bernhard Middendorf¹
- 発表年: 2023
- 掲載誌/学会: ce/papers in civil engineering
- キーワード: Aluminum casting, alkali-activated materials, ultra-high performance concrete, thermal resistance
2. 抄録:
軽金属のダイカストは通常、スチール金型を使用して行われる。しかし、これらの金型は、表面での金属腐食の発生や、必要なプロセス化学の結果としての鋳造品への水素混入により、鋳造品質の低下を招く。アルカリ活性スラグをベースとした超高性能コンクリートは、アルミニウム鋳造用のミネラル金型を製造するために使用できる。再利用可能なミネラル金型の使用は、様々な薄肉形状の製造を可能にするだけでなく、金属腐食のリスクを排除し、コンクリート金型はその熱安定性と高強度により複数回のサイクルに耐えることができるため、すでに一般的なロストミネラルモールドよりも潜在的に優れている。
3. 序論:
近年、軽金属鋳造、特にアルミニウム鋳造の重要性が増している。自動車、航空宇宙、さらには土木工学の分野では、輸送コストの高さや排出ガス削減の要求から、軽量化が求められている。従来のダイカストプロセスでは主にスチール金型が使用されるが、これにはいくつかの欠点がある。水性離型剤の使用による水素の発生は、鋳造品内にガス気孔を形成し、機械的特性や耐久性を低下させる。また、アルミニウム溶湯とスチール金型の組み合わせは金属腐食を引き起こし、鋳造品の表面品質に悪影響を及ぼす。これらの問題に対処するため、本稿では代替材料として、特殊な要件を満たす高強度・高耐熱性のミネラル材料、すなわち超高性能コンクリート(UHPC)の適用を提案する。
4. 研究の概要:
研究トピックの背景:
スチール金型を用いた従来の軽金属鋳造プロセスは、水素混入による気孔形成や金属腐食といった品質上の課題を抱えている。これらの課題は、不良率の増加や生産コストの上昇に繋がり、特に高品質が求められる部品製造において問題となる。
従来研究の状況:
UHPCは通常、ポルトランドセメントをベースに製造されるが、アルカリ活性材料(AAM)をベースにしたUHPCも存在する。AAMは、ポルトランドセメント系に比べて化学的に結合した水分が少なく、熱的に安定したC-A-S-H相やN-A-S-H相を形成するため、高温下での性能が優れている。また、再生セルロース繊維を添加することで、高温時の透水性が向上し、熱安定性がさらに高まることが知られている。
研究の目的:
本研究の目的は、アルカリ活性スラグをベースとし、再生セルロース繊維を添加した超高性能コンクリート(AAM-UHPC)を開発し、それをアルミニウム鋳造用の再利用可能な金型として適用した場合の性能を評価することである。具体的には、複数回の鋳造サイクルに耐える熱的・機械的安定性を検証し、従来のスチール金型に対する優位性を示すことを目指す。
研究の核心:
研究の核心は、AAM-UHPCで製造した金型が、700℃を超えるアルミニウム溶湯の鋳造という過酷な熱的・機械的負荷に複数回耐えうるかを実験的に検証することにある。熱衝撃試験による強度評価、微細構造分析、そして実際の鋳造実験を通じて、材料の挙動を多角的に評価し、鋳造用金型としての実用性を明らかにする。
5. 研究方法
研究デザイン:
本研究は、実験室での材料開発と、実際の鋳造条件下での性能評価を組み合わせた実験的デザインを採用している。まず、特定の配合を持つAAM-UHPCを開発し、その基本的な機械的特性と熱的特性を評価する。次に、その材料で製造した金型を用いてアルミニウムの鋳造実験を行い、金型の耐久性と鋳造品の品質を観察する。
データ収集・分析方法:
- 材料配合: Table 1に示す配合に基づき、高炉スラグ、シリカフューム、石英砂、再生セルロース繊維などを用いてAAM-UHPCを製造した。
- 金型製造: PTFE製の型枠を用いて、AAM-UHPC製の金型(ダイ)を製造した(Figure 1)。
- 鋳造実験: Indutherm VC 650 V鋳造機を使用し、300℃に予熱した金型に720℃のアルミニウム溶湯を3バールの圧力で鋳込んだ(Figure 2)。
- 熱衝撃試験: 室温の立方体試験体を700℃のオーブンに1時間投入し、急冷後、残留圧縮強度を測定した。
- 材料分析: 熱衝撃前後の試験体について、水銀圧入ポロシメトリー(MIP)による細孔径分布測定、および熱重量分析(TGA)による熱安定性評価を行った。
研究対象と範囲:
研究対象は、本研究で開発された特定の配合を持つAAM-UHPC材料、およびそれから製造されたアルミニウム鋳造用金型である。研究範囲は、材料の機械的強度、熱衝撃耐性、複数回の鋳造サイクルにおける金型の耐久性、および表面状態の変化の評価に限定される。鋳造品への水素混入量など、より詳細な相互作用については今後の課題とされている。
6. 主要な結果:
主要な結果:
- AAM-UHPCは7日養生後に136.6 N/mm²の高い圧縮強度を示した。700℃の熱衝撃負荷後も、22.6 N/mm²の圧縮強度を維持し、爆裂的な破壊は発生しなかった。
- 水銀圧入ポロシメトリーの結果(Figure 3)、熱処理後のサンプルは、特に2~20 µmの範囲で気孔率が大幅に増加した。これはRC繊維の分解によるもので、水蒸気の thoát路を形成し、耐熱性を向上させると考えられる。
- 熱重量分析(Figure 4)では、未処理サンプルの初回加熱時に約15%の質量減少が見られたが、一度加熱されたサンプルの再加熱時の質量減少は1%未満であり、熱サイクルに対する高い安定性が示された。
- 実際の鋳造実験では、金型は複数回の鋳造サイクルに耐えたが、溶湯と接触するキャビティ表面には微細なクラックやアルミニウムの付着などの表面劣化が見られた(Figure 6)。
- 金型の合わせ面の密閉性と均一な圧力分布を確保するために使用された厚さ2mmの銅箔スペーサー(Figure 5)は、金型の早期破損を防ぐ上で極めて重要であった。
Figure Name List:


- Figure 1 Manufacturing process of the AAM-UHPC dies
- Figure 2 Casting process with the AAM-UHPC dies
- Figure 3 Pore size distribution of AAM-UHPC stored at room temperature (blue) and heat-treated at 700°C (grey), determined with Mercury Intrusion Porosimetry
- Figure 4 Weight loss of AAM-UHPC after storage at room temperate (a) and heat-treated at 700°C (b)
- Figure 5 Copper foil as a spacer on one side of the AAM-UHPC die
- Figure 6 AAM-UHPC-die after manufacturing (a) and after three casting-cycles with aluminum (b)
7. 結論:
本研究で開発されたAAM-UHPCは、アルミニウム鋳造用の再利用可能な金型として十分な可能性を持つことが証明された。圧縮強度試験とTGAによって、その高い熱安定性が確認された。AAM-UHPCは、熱衝撃負荷後も20 N/mm²を超える十分な圧縮強度を示し、繰り返し加熱後の質量減少も最小限に抑えられ、さらなる相分解は予測されない。AAM-UHPC中に化学的に結合した水が存在しないことが、その熱安定性を高めている。銅箔の使用は、金型の破損までのサイクル数を増加させ、密閉性を高めることに成功した。AAM-UHPCの低い熱伝導率は、スチール金型と比較して溶湯の凝固を遅らせるため、より低い圧力での鋳造や薄肉形状の製造を可能にするという利点も持つ。
8. 参考文献:
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専門家Q&A:トップクエスチョンへの回答
Q1: なぜこのコンクリート配合に再生セルロース(RC)繊維が添加されたのですか?
A1: RC繊維は、この金型材料の耐熱性を向上させるために不可欠な役割を果たします。約300℃以上の高温にさらされると、RC繊維は分解・焼失し、材料内部に微細なチャネル(通り道)のネットワークを形成します。このチャネルが、材料内部で発生する水蒸気を効率的に外部へ排出する経路となり、内部圧力の急激な上昇を防ぎ、金型が爆裂的に破壊される(スポーリング)のを防ぎます。
Q2: 鋳造実験で銅箔のスペーサーが使用された目的は何ですか? A2: 銅箔スペーサーは2つの重要な目的のために使用されました。第一に、金型の2つのパーツの合わせ面にはミクロン単位の凹凸があり、完全に平坦ではありません。銅箔を挟むことで、鋳造時に溶融アルミニウムが隙間から漏れ出すのを防ぐシーリング材としての役割を果たします。第二に、金型をプレスする際の圧力が不均一なエッジに集中するのを防ぎ、圧力を均等に分散させることで、局所的な応力集中による金型の早期破損を防ぎます。
Q3: 論文では、この用途においてAAM-UHPCが従来のポルトランドセメント系UHPC(OPC-UHPC)より優れていると示唆されています。その主な理由は何ですか? A3: 主な理由は、熱安定性の違いにあります。OPC-UHPCの強度発現に寄与するC-S-H相は、その構造内に多くの化学結合水を含んでいます。高温になるとこの結合水が分解・離脱し、水和物構造が破壊されるため、大幅な強度低下や爆裂を引き起こしやすくなります。一方、AAM-UHPCの反応生成物(N-A-S-(H)相やC-A-S-H相)は、化学結合水が非常に少ないか、全く含まないため、高温下でも構造が安定しており、強度低下が緩やかで爆裂しにくいという特性があります。
Q4: 数回の鋳造サイクル後、金型表面に見られた劣化の主な原因は何ですか? A4: 主な原因は、鋳造プロセス中に金型が受ける熱的および機械的な複合ストレスです。高温の溶湯との接触による急激な加熱・冷却サイクル(サーマルショック)と、溶湯の充填および凝固後の離型時にかかる機械的ストレスが繰り返し加わります。Figure 6bに見られるように、特に中央の孔の周囲など、形状的にストレスが集中しやすい部分で微細な剥離(スポーリング)やクラックが発生し、これがサイクルを重ねるごとに進行します。
Q5: このコンクリート金型の熱伝導率の低さは、鋳造プロセスにどのような影響を与えますか? A5: スチールに比べてコンクリートの熱伝導率が低いことは、重要な利点となります。熱伝導率が低いと、金型に注入されたアルミニウム溶湯の熱が奪われる速度が遅くなり、凝固が緩やかになります。これにより、スチール金型では溶湯がすぐに固まってしまい充填が困難だった薄肉の複雑な形状でも、より低い圧力で完全に充填することが可能になります。これは、鋳造プロセスの自由度を高め、新たな製品設計の可能性を拓きます。
結論:より高い品質と生産性への道を拓く
本研究は、従来のスチール金型が抱える金属腐食や水素混入といった根本的な課題に対し、アルカリ活性スラグ金型という革新的な解決策を提示しました。このAAM-UHPC製の金型は、700℃を超える高温下での複数回使用に耐える優れた熱安定性を持ち、爆裂的な破壊を起こすことなく、十分な品質の鋳造品を生産できることを実証しました。特に、その低い熱伝導率は、薄肉・複雑形状部品の製造可能性を広げ、小ロット生産におけるコスト効率を大幅に改善する可能性を秘めています。
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著作権情報
このコンテンツは、[Janna Link氏、Alexander Wetzel氏、Sebastian Müller氏、Bernhard Middendorf氏]による論文「Ultra-high performance alkali-activated slag as a re-usable mold for light metal casting」に基づく要約および分析です。
出典: https://doi.org/10.1002/cepa.2772
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