アルミダイカストの生産信頼性:シフト別データから生産性と不良率を最適化する方法
本技術概要は、Erika Jankajová氏およびMartin Kotus氏によって執筆され、PRODUCTION ENGINEERING ARCHIVES(2015年)に掲載された学術論文「Reliability evaluation in the production process of aluminum castings」に基づいています。


キーワード
- 主要キーワード: アルミダイカストの生産信頼性
- 副次キーワード: 生産性向上, 不良率削減, ダイカストプロセス, 品質管理, 自動化生産
エグゼクティブサマリー
- 課題: 自動化されたアルミダイカスト生産において、高い生産性を達成しつつ、同時に厳格な品質要求を満たすことは、常に業界が直面する重要な課題です。
- 手法: 特定のアルミダイカスト部品を対象に、1週間にわたり3つの勤務シフト(朝、昼、夜)ごとの生産量、生産性、および不良率を監視・分析しました。
- 重要な発見: 夜間シフトは一貫して最も生産量が低く、最も高い不良率を記録した一方、朝のシフトは最も不良率が低いという明確な傾向が確認されました。
- 結論: ダイカスト操業における生産性と品質を向上させるためには、シフトごとのパフォーマンスデータを詳細に分析し、特定の時間帯に起因する課題を特定することが不可欠です。
課題:なぜこの研究がHPDC専門家にとって重要なのか
今日の製造業は、競合他社からの絶え間ない制約と脅威に直面しています。より安く、より優れた、より生産性の高い製造を実現するための鍵は、科学技術の進歩から得られる知識の活用にあります。アルミダイカストの分野において、経済的効率性を左右する決定的な要因は、1シフトあたりの鋳造部品数と、その中で品質要求を満たす良品の数です。
鋳造品の品質は、金型の設計だけでなく、その信頼性にも大きく影響されます。特に金型の寿命は、ダイカスト時の温度要因に左右され、高品質な鋳造品を生産するためには、金型キャビティ表面の最適温度を維持することが不可欠です。
本研究は、特定のアルミダイカスト部品の生産性と不良(不適合)品を監視・分析することを通じて、製造プロセスの信頼性を評価することを目的としています。このアプローチは、生産現場が直面する「生産量と品質の両立」という根源的な課題に、データに基づいた洞察を提供するものです。
アプローチ:研究手法の詳解
この信頼性評価は、スニナにあるMOPS PRESS社で実施されました。同社は、型締力250-750 kNのダイカストマシンによるアルミニウム合金鋳造部品の生産を専門としています。
- 対象部品: 評価対象となったのは、BOSCH & SIEMENS社製の自動洗濯機用電子メーターパネルとして使用される「Lagerschild AS」と特定された鋳造部品です(図1参照)。
- 使用設備: 生産はワークステーションL20-630.05で行われました。このステーションは、CLH 630.05ダイカストマシン、処理装置、ダイカスト炉(給湯およびロボットによる取り出し・搬送機能付き)で構成されています。鋳造サイクルは、ロボットによる金型からの部品取り出し、外観検査、冷却、そして最終工程であるバリ取り(シャーリング)まで自動化されています。
- データ収集: データは、1週間(稼働5日間、合計15シフト)にわたって収集されました。朝、昼、夜の各シフトについて、鋳造部品の総数、生産性(良品率)、および不適合品率が記録・分析されました。
発見:主要な研究結果とデータ
本研究から得られたデータは、生産性と品質がシフトや曜日によって大きく変動することを示しており、オペレーション改善のための重要な洞察を提供します。
発見1: 生産性と不良率はシフトに大きく依存する
データ分析の結果、勤務シフトによって生産性と不良率に顕著な差が見られました。夜間シフトは、1週間の平均不良率が5.42%と最も高く、生産量も最も少ない傾向にありました。対照的に、朝のシフトは平均不良率が3.46%と最も低く、安定した品質を達成していました。昼のシフトの不良率は4.38%でした。この結果は、従業員の主観的な要因(疲労度、集中力など)や管理体制が、自動化されたプロセスにおいても品質に影響を及ぼす可能性を示唆しています。
発見2: 生産量と品質の間に見られる逆相関の傾向
Table 1のデータを詳細に見ると、生産量と品質(生産性)の間に興味深い関係が浮かび上がります。週の中で最も生産量が少なかった火曜日(4,780個)は、最も高い生産性(97.05%)と最も低い不良率(2.95%)を記録しました。一方で、最も生産量が多かった金曜日(5,980個)は、最も低い生産性(94.25%)と最も高い不良率(5.75%)を示しました。このデータは、単に生産量を最大化するだけでは全体的な効率性が向上せず、品質の維持が伴わなければならないことを明確に示しています。
実務への示唆:研究開発と生産オペレーションへの応用
本研究の結果は、ダイカスト工場のさまざまな役割の専門家にとって、具体的で実践的なヒントを提供します。
- プロセスエンジニア向け: この研究は、特に夜間シフトにおける不良率の上昇が、オペレーターの疲労、監督レベルの低下、あるいは周囲温度の変化といった、時間帯に固有の要因によって引き起こされている可能性を示唆しています。これらの要因を特定し、プロセスの安定性を高めるための調整(例:夜間シフト中のパラメータ微調整、自動監視システムの強化)を行うことで、全体の品質向上に貢献できる可能性があります。
- 品質管理チーム向け: 論文のTable 1に示されたデータは、曜日やシフトと不良率の間に明確な相関関係があることを示しています。この知見は、品質検査の計画を最適化するために活用できます。特に、不良率が上昇する傾向にある週の後半(特に金曜日)や夜間シフトにおいて、検査頻度を高めたり、重点的なチェック項目を設けたりすることで、不良品の流出を未然に防ぐことができます。
- オペレーションマネージャー向け: シフト間の顕著なパフォーマンス格差、特に夜間シフトの高い不良率(5.42%)は、工場全体の効率を改善するための重要な介入領域を浮き彫りにします。強化されたトレーニング、監督体制の見直し、あるいは夜間シフトに特化したプロセス監査などを実施することで、パフォーマンスの底上げを図ることが可能です。
論文詳細
[アルミ鋳物の生産プロセスにおける信頼性評価]
1. 概要:
- 論文名 (Title): Reliability evaluation in the production process of aluminum castings
- 著者 (Author): Erika Jankajová, Martin Kotus
- 発行年 (Year of publication): 2015
- 掲載誌/学会 (Journal/academic society of publication): ARCHIWUM INŻYNIERII PRODUKCJI (PRODUCTION ENGINEERING ARCHIVES), Vol. 6, No 1, pp 49-51
- キーワード (Keywords): production process, die casting, aluminium castings
2. 要旨 (Abstract):
本稿は、ダイカストの生産プロセスの信頼性評価を扱う。生産プロセスの信頼性は、生産性と変形(不良)に基づいて評価された。適切に選択された生産技術により、アルミニウム鋳物に要求される品質を維持しつつ、労働生産性の向上が達成可能である。
3. 緒言 (Introduction):
現在、各製造組織は競合他社内での制約や脅威に抵抗している。より安く、より優れ、より生産的な製造のための重要な要素は、科学技術分野からの知識移転である。ダイカストの経済的効率性には、1シフトあたりの鋳造部品数および品質要求を満たす鋳造部品数が決定的な影響を与える。したがって、社内での不良品は、品質要求を満たさず使用不能となった製造バッチからの部品数によっても評価される。鋳物の品質は、設計ソリューションだけでなく、金型の信頼性にも影響される。金型の寿命は、ダイカストにおける温度要因の影響に依存する。高品質な鋳物生産の重要な前提条件は、金型キャビティの各表面部分の最適温度を維持することである。本研究は、ダイカストによって製造されたアルミニウム鋳造部品の評価に基づき、製造プロセスの信頼性評価を目的とする。製造プロセスの品質は、特定の鋳造部品の生産性と不良品を監視・分析することを通じて評価される。
4. 研究概要:
研究トピックの背景:
本研究は、競争の激しい製造業において、アルミダイカストプロセスの経済効率性を高めるための信頼性評価に焦点を当てている。生産量と品質(不良率)のバランスが、コスト効率に直結する重要な課題として認識されている。
従来の研究状況:
従来の研究では、金型の設計や温度管理が鋳物の品質に与える影響が指摘されてきた。本研究は、これらの技術的要因に加え、実際の生産現場におけるシフトごとの生産性と不良率というオペレーションデータを基に、プロセスの信頼性を評価するアプローチを取る。
研究目的:
ダイカストで製造されるアルミ鋳物の生産性と不良品を監視・分析することを通じて、製造プロセス全体の信頼性を評価し、品質を維持しながら生産性を向上させるための知見を得ること。
研究の中核:
スロバキアのMOPS PRESS社における特定のアルミ部品(Lagerschild AS)の生産を対象とし、1週間の全シフト(15シフト)にわたる生産量、生産性(良品率)、および不適合品率をデータとして収集・分析した。
5. 研究方法
研究デザイン:
実世界の生産環境におけるケーススタディとして設計された。特定の自動化されたワークステーション(L20-630.05)を対象に、一定期間(1週間)の生産データを収集し、時間的要因(曜日、シフト)とパフォーマンス指標(生産量、生産性、不良率)との関係を分析した。
データ収集・分析方法:
各製造バッチに割り当てられたディスパッチノートカードに基づき、鋳造部品数が決定された。収集されたデータ(生産個数、良品数、不良品数)から、シフトごと、曜日ごとの生産性(%)と不適合品率(%)を算出し、比較分析を行った。
研究対象と範囲:
- 対象組織: MOPS PRESS, Ltd. (スニナ)
- 対象部品: Lagerschild AS (BOSCH & SIEMENS社製洗濯機用パネル)
- 対象プロセス: 型締力250-750 kNのダイカストマシンによるアルミニウム合金の自動ダイカストプロセス
- 調査期間: 1週間(稼働5日間、1日3シフト、合計15シフト)
6. 主要な結果:
主要な結果:
- 週全体の総生産数は27,604個、平均生産性は95.58%、平均不良率は4.42%であった。
- 最も生産性が高かったのは火曜日(97.05%)、最も低かったのは金曜日(94.25%)であった。
- 不良率が最も低かったのは火曜日(2.95%)、最も高かったのは金曜日(5.75%)であった。
- シフト別では、夜間シフトの不良率が最も高く(5.42%)、朝のシフトが最も低かった(3.46%)。
- 夜間シフトは生産量が最も少なく、不良率が最も高い傾向が見られた。
図の名称リスト:
- Fig. 1 Cast Lagerschild AS
- Fig. 2 Production machine for Workstation L20-630.05
- Fig. 3 Productivity of the cast parts manufacturing process on the workstation
- Fig. 4 Nonconformities of the cast parts manufactured on the workstation


7. 結論:
1週間の調査期間中、27,604個の鋳造部品が生産され、生産性は95.58%、不良率は4.42%であった。これは、オペレーターの介入を最小限に抑えた自動化ワークステーションによって達成された。最も少ない数の鋳造部品が夜間シフトで生産されたが、同時に最も高い不良率も記録された。最も低い不良率は朝のシフトで記録され、これには客観的な原因だけでなく、従業員、品質管理者、または雇用者の主観的な原因も影響している。自動化された製造プロセスは、このワークステーションにとって適切かつ効果的であると分類される。ダイカストの生産性は、製造方法を遵守し、不適合品を減少させることで改善できる。
8. 参考文献:
- KOTUS M., KOVÁČ I., PETRÍK M., KOVÁČ J. Production of aluminium casts through casting under pressure. (Výroba hliníkových odliatkov pomocou tlakového liatia). In Quality and Reliability of Technical Systems. Nitra : SUA, 2009. p.176-180. ISBN 978-80-552-0222-8.
- MATISKOVÁ D., GAŠPAR Š., MURA L. Thermal Factors of Die Casting and Their Impact on the Service Life of Moulds and the Quality of Castings. In Acta Polytechnica Hungarica, Vol.10, No.3, 2013. p.65-78. ISSN 1785-8860.
- MATISKOVÁ D. The Methodology of Economics Costs Influential on Automation of Component Production. In American Journal of Economics. No. 7, 2012. p.164-170. ISSN 2166-496X.
- PETRÍK M., KOTUS M. Automation of casting under pressure in the production process. (Automatizácia tlakového liatia vo výrobnom procese). In Safety – Quality – Reliability. Košice : TU, 2009. p.173-177. ISBN 978-80-553-0137-2.
- TOLNAI R. Engineering Technology. (Strojárska technológia). Nitra : SUA, 2007. p.319. ISBN 978-80-8069-842-3.
専門家Q&A:技術的な疑問に答える
Q1: なぜこの研究では「Lagerschild AS」という特定の部品が選ばれたのですか?
A1: 論文では、この特定の部品を選んだ理由は明記されていません。しかし、この部品は自動車および電機産業向けの自動化されたダイカストプロセスの代表的なケーススタディとして機能しています。この部品の評価を通じて得られた知見は、同様の生産プロセスを持つ他の部品にも応用可能であると考えられます。
Q2: 論文では、朝シフトの低い不良率に「主観的な原因」が影響していると述べられていますが、具体的にはどのようなことが考えられますか?
A2: 論文は「従業員、品質管理者、または雇用者の主観的な原因」と記述していますが、詳細は述べていません。一般的に考えられる要因としては、日中の時間帯における監督レベルの高さ、一日の始まりでオペレーターの注意力や集中力が高いこと、品質管理者が現場にいるため問題に対するフィードバックが迅速であることなどが挙げられます。
Q3: 火曜日の生産性(97.05%)から金曜日の生産性(94.25%)への低下は、統計的に有意な差と言えますか?
A3: 論文では統計的有意性の検定は行われていません。しかし、週を通じて生産性が一貫して低下し、それに対応して不良率が上昇するという傾向は、生産現場においてさらなる調査を正当化する強い負の相関を示唆しています。この傾向は、週の疲労の蓄積や、週末に向けた生産ペースの変化などが影響している可能性があります。
Q4: 観測された「不適合品(Nonconformities)」には、具体的にどのような種類の欠陥が含まれていたのでしょうか?
A4: この論文では、観察された欠陥の種類(例:湯回り不良、引け巣、ブリスターなど)については特定していません。研究の焦点は、特定の欠陥モードの分析ではなく、すべての不適合品を単一のパーセンテージとして集計し、プロセス全体の信頼性と生産性を評価することに置かれています。
Q5: この研究は1週間という短期間で行われましたが、より長期間の調査ではどのような結果が予測されますか?
A5: 本研究は1週間のスナップショットを提供しています。長期間にわたる調査を行えば、金型の摩耗、季節的な温度変化、原材料ロットの変更といった、今回考慮されていない要因が明らかになる可能性があります。これらの要因は、時間とともに生産性や不良率に影響を与える可能性があるため、継続的なデータ収集と分析がプロセスの安定化には不可欠です。
結論:より高い品質と生産性への道筋
本研究は、アルミダイカストの生産信頼性を評価する上で、シフトごと、曜日ごとのパフォーマンスデータを分析することが極めて重要であることを示しました。特に、夜間シフトにおける生産性の低下と不良率の上昇という課題は、多くの製造現場で共通する可能性があります。自動化されたプロセスであっても、人的要因や時間的要因が品質に与える影響を無視することはできません。
CASTMANでは、最新の業界研究から得られた知見を応用し、お客様の生産性と品質の向上を支援することに尽力しています。もし本稿で議論された課題が、貴社の事業目標と一致するようでしたら、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。これらの原則を貴社の部品生産にどのように適用できるか、共に探求してまいります。
著作権情報
- このコンテンツは、Erika Jankajová氏およびMartin Kotus氏による論文「Reliability evaluation in the production process of aluminum castings」を基にした要約および分析です。
- 出典: http://www.qpij.pl (論文が利用可能なURL)
本資料は情報提供のみを目的としています。無断での商業利用は禁じられています。 Copyright © 2025 CASTMAN. All rights reserved.