この論文概要は、SAEインターナショナルで発表された論文「BMW's Magnesium-Aluminium Composite Crankcase, State-of-the-Art Light Metal Casting and Manufacturing」に基づいています。
1. 概要:
- タイトル: BMWのマグネシウム-アルミニウム複合クランクケース、最先端の軽金属鋳造と製造 (BMW's Magnesium-Aluminium Composite Crankcase, State-of-the-Art Light Metal Casting and Manufacturing)
- 著者: ミヒャエル・ヘッシュル、ヴォルフラム・ヴァゲナー、ヨハン・ヴォルフ (Michael Hoeschl, Wolfram Wagener and Johann Wolf)
- 発表年: 2006年
- 掲載ジャーナル/学会: SAEインターナショナル (SAE International)
- キーワード: マグネシウム鋳造、アルミニウム、複合クランクケース、軽金属鋳造、製造、エンジン設計、効率的なダイナミクス、自動車工学 (magnesium casting, aluminium, composite crankcase, light metal casting, manufacturing, engine design, efficient dynamics, automotive engineering)
2. 研究背景:
- 研究トピックの社会的/学術的背景: 自動車産業は、常にダイナミック性能の向上と燃料消費量の削減という要求に突き動かされています。出力向上と軽量化のバランスを取ることは、重要な課題です。BMWのブランドアイデンティティは、高い俊敏性とドライビングエクスペリエンスと強く結びついており、エンジン設計と製造における革新的なアプローチが必要です。
- 既存研究の限界: 従来の軽量エンジン部品設計手法は、新世代エンジンの要求を満たすには不十分になってきていました。鉄鋳物からアルミニウムへの移行など、クランクケース材料における過去の技術的飛躍は、すでに大幅な軽量化をもたらしていました。従来のアルミニウム製クランクケースを使用したさらなる軽量化は、ますます困難になっていることが判明しました。
- 研究の必要性: BMWの「効率的なダイナミクス」のコンセプトを実現するためには、特にクランクケースの軽量化に焦点を当てながら、出力の向上と燃料消費量の削減を同時に行うという、エンジン設計における新たな方向性を探求する必要がありました。これには、漸進的な改良から脱却し、マグネシウムや複合材料の調査を含む革新的なアプローチを採用することが必要でした。
3. 研究目的と研究課題:
- 研究目的: 本研究の主な目的は、BMWの直列6気筒エンジン用のマグネシウム-アルミニウム複合クランクケースを開発および実装することであり、量産のための軽量設計と製造における大きな進歩を表しています。
- 主な研究課題:
- 最新のエンジン設計において、水冷クランクケースの量産にマグネシウム鋳造をどのように活用できるか?
- クランクケースの用途において、マグネシウムの低いヤング率や耐食性などの限界を克服するための最適な材料の組み合わせと構造構造は何か?
- マグネシウム-アルミニウム複合クランクケースのような複雑な複合部品のための、堅牢で信頼性の高い製造プロセスをどのように確立できるか?
- 複合クランクケースの品質と性能、特にマグネシウムとアルミニウムの接合、およびアルミニウムインサート内のシリコン分布に関して、どのような革新的な試験方法が必要か?
- 研究仮説: 本研究では、マグネシウムハウジングとアルミニウムインサート、焼結鋼インレイを組み合わせた複合設計により、大幅な軽量化を達成し、高性能エンジンクランクケースの厳しい性能と耐久性の要件を満たすことができると仮説を立てました。また、高度な鋳造、表面処理、および試験プロセスが、量産を成功させるために不可欠であるとも仮説を立てました。
4. 研究方法:
- 研究デザイン: 本研究では、マグネシウム-アルミニウム複合クランクケースの概念化、材料選定、構造設計、製造プロセス開発、および試験に焦点を当てた、設計および開発アプローチを採用しました。
- データ収集方法: 本論文では、主にプロセス開発と製造工程について詳述しています。材料データと性能特性は参照されていますが、本論文内で実験を通じて明示的に導き出されたものではありません。試験方法としては、X線検査、シリコン分布の渦電流探傷試験、および接合品質の超音波励起ロックインサーモグラフィーなどが記述されています。
- 分析方法: 本研究では、鋳造プロセス計画と最適化のために、コンピュータシミュレーション(MagmaSoftのFDMソフトウェアツール)を利用しました。品質保証のために、データマトリックスコード(DMC)追跡、X線検査、渦電流探傷試験、および超音波励起ロックインサーモグラフィーなどの方法が含まれていました。顕微鏡分析は、シリコン粒子分析の従来の方法として言及されており、渦電流法と比較されています。
- 研究対象と範囲: 本研究は、BMWの直列6気筒火花点火エンジン用のクランクケースの開発に焦点を当てました。範囲は、この複合クランクケースに特化した設計、材料選定、鋳造、製造、表面処理、機械加工、および品質保証プロセスを網羅しています。研究は、BMWのランツフート工場とオーストリアのシュタイアエンジン工場で実施され、外部材料サプライヤーとの協力が含まれていました。
5. 主な研究成果:
- 主な研究成果:
- 水冷マグネシウム-アルミニウム複合クランクケースの開発と量産実装の成功。
- 従来のアルミニウムおよび鉄製クランクケース設計と比較して、大幅な軽量化を達成(図2)。
- マグネシウムハウジング(合金AJ62)、シリンダーライナー用の過共晶アルミニウム合金(AlSi17Cu4Mg)インサート、およびマグネシウム製ベッドプレート内の焼結鋼インレイを特徴とする複合構造の導入。
- アルミニウムインサートの低圧鋳造、マグネシウムハウジングとベッドプレートの高圧ダイカスト(HPDC)、表面処理の溶射アークワイヤープロセス(LDS)などの特殊な製造プロセスの開発。
- シリコン分布の渦電流探傷試験や接合品質の超音波励起ロックインサーモグラフィーなど、革新的な品質保証手法の実装。
- 統計的/定性的分析結果: 本論文は、主にプロセス記述と設計および製造革新の定性的評価に焦点を当てています。定量的なデータは図2に示されており、マグネシウム-アルミニウム複合鋳造による大幅な軽量化を示すクランクケースの重量変化を示しています。
- データ解釈: 図1は、「効率的なダイナミクス」をクランクケースの軽量化(-10 kg)、エンジン出力の向上(+20 kW)、燃料消費量の削減(-12%)の組み合わせとして定義しています。図2は、鉄鋳物、アルミニウム鋳造、および統合されたAlSi17と比較して、マグネシウム-アルミニウム複合クランクケースで達成された軽量化を示しています。複合設計が最も軽量化を達成しています。
- 図のリスト:
- 図 1: 効率的なダイナミクスの定義 (Definition of efficient dynamics)
- 図 2: クランクケースの重量変化 (Weight development of crankcases)
- 図 3: 複合Mg/Alシリンダークランクケース (Composite Mg/Al cylinder crankcase)
- 図 4: ベッドプレート付きクランクケース断面 (Section crankcase with bedplate)
- 図 5: AlSi17Cu4Mg製インサート (Insert, made of AlSi17Cu4Mg)
- 図 6: DMCによる部品のコーディング [3] (Coding of components by DMC [3])
- 図 7: インサートのアルミニウムコーティング (Aluminium coating of the insert)
- 図 8: MgとAlの間の反応ゾーン (Reaction zone between Mg and Al)
- 図 9: BMWランツフート工場のセントラル溶解設備 (Central melting facility at BMW Landshut plant)
- 図 10: マグネシウムインゴットパレット (Magnesium ingot pallet)
- 図 11: 液体マグネシウムの輸送 (Transportation of liquid magnesium)
- 図 12: BMWランツフート工場のダイカストマシン (Die casting machines at BMW Landshut plant)
- 図 13: hpdcからクランクケースを取り外すロボット (Robots remove crankcases from the hpdc)
- 図 14: カプセル化された機械加工センター (BAZ) (Encapsulated machining centre (BAZ))
- 図 15: チップの蓄積を防ぐBAZ設計 (BAZ design to prevent chip accumulation)
- 図 16: Mg-Alチップで作られたブリケット (Briquette made of Mg-Al-chips)
- 図 17: 一次および二次シリコン粒子(顕微鏡分析) (Primary and secondary silicon particles (microscopic analysis))
- 図 18: シリンダーライナーの渦電流分析 (Eddy-current analysis of a cylinder liner)
- 図 19: USロックインサーモグラフィーの模式図 [6] (Schematic illustration of the US-lock-in-thermography [6])
- 図 20: USロックインサーモグラフィーの結果 (Result of a US-lock-in-thermography)
- 図 21: 新型BMW 6気筒エンジン (the new BMW 6-cyclinder engine)
- 図 22: BMW 6シリーズクーペ (2004) (The BMW 6-Series Coupé (2004))
- 図 23: 新型BMW 3シリーズエステート (The new BMW 3-Series Estate)
- 図 24: BMWコンセプトZ4クーペとZ4ロードスター (BMW Concept Z4 Coupé and Z4 roadster)
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![Figure 6: Coding of components by DMC [3]](https://castman.co.kr/wp-content/uploads/image-327-png.webp)
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6. 結論と考察:
- 主な結果の要約: 本研究は、BMWの直列6気筒エンジン用のマグネシウム-アルミニウム複合クランクケースの量産が可能であることを実証することに成功しました。この革新により、エンジン性能と耐久性を維持または向上させながら、大幅な軽量化を達成しました。この成功の鍵は、インテリジェントな複合設計、高度な鋳造および製造プロセス、革新的な品質保証手法でした。
- 研究の学術的意義: 本研究は、自動車工学、特にエンジン設計における軽量材料の応用分野に貢献しています。複合設計とプロセス革新を通じて固有の材料の限界を克服し、重要なエンジン部品へのマグネシウム鋳造の成功事例を示しています。超音波励起ロックインサーモグラフィーや高度な渦電流分析などの新しい試験方法の開発も、非破壊検査技術への重要な学術的貢献を表しています。
- 実用的な意義: 実用的な意義は、自動車産業にとって非常に大きいです。マグネシウム-アルミニウム複合クランクケースは、性能を損なうことなく、より軽量で燃費の良い自動車を可能にします。開発された製造および品質保証プロセスは、複雑な複合部品の量産のための青写真を提供します。この技術は、BMWの直列6気筒エンジンに実装され、さまざまなモデルに拡大されています。
- 研究の限界: 本論文は、主に開発と実装プロセスに焦点を当てています。比較燃料消費量や排出量データなどの詳細な性能データは提示されていません。今後の研究では、量産におけるこの複合クランクケースの長期的な耐久性と費用対効果を調査することができます。
7. 今後のフォローアップ研究:
- フォローアップ研究の方向性: 今後の研究は、以下に焦点を当てることができます。
- 性能向上とコスト削減のための複合設計と材料選定のさらなる最適化。
- 特性と加工性を向上させるための代替マグネシウム合金とアルミニウム合金の探求。
- マグネシウムおよびアルミニウム部品のための、さらに効率的で環境に優しい製造プロセスの開発。
- さまざまな運転条件下での複合クランクケースの長期的な耐久性と信頼性の調査。
- 同様の複合設計原理を他のエンジン部品や自動車構造に適用すること。
- さらなる探求が必要な分野: 異種材料、特にマグネシウムとアルミニウムの接合技術の分野は、複合構造の性能と信頼性を向上させるために、さらなる探求が必要です。さらに、複雑な界面と材料の非破壊検査方法の進歩は、軽量自動車部品の品質と安全性を確保するために不可欠です。
8. 参考文献:
- [1] C. Landerl, R. Jooß, A. Fischersworring-Bunk, J. Wolf, A. Fent, S. Jagodzinski, ‘Aluminium and magnesium compound construction-an innovative approach to lightweight technology in crankcases', 12th Aachen Colloquium (2003)
- [2] C. Landerl, M. Klueting: ‘The new BMW six-cylinder in-line spark-ignition engine', part 1: concept and constructive structure, Motortechnische Zeitschrift 65 (2004)
- [3] J. Wolf, W. Wagener, 'The BMW magnesium-aluminium crankcase a challenge for state-of-the-art light metal casting', IMA's 62nd Annual World Magnesium Conference, Berlin (2005)
- [4] E. Baril, P. Labelle, A. Fischersworring-Bunk, 'AJ(Mg-AI-Sr) Alloy System Used for New Engine Block', SAE2004-01-0659 (2004)
- [5] E. Baril, P. Labelle, M.O. Pekguleryuz, 'Elevated Temperature Mg-Al-Sr: Creep Resistance, Mechanical Properties and Microstructure' JOM (2003)
- [6] A. Fent, W. Wagener, F. Dörnenburg, A. Fischer-worring-Bunk, 'Innovative Testing Methodology for Quality Assurance of the new 6-Cylinder-Mg/Al-Composite Crankcase', 13.Magnesium-Abnehmer-seminar, EFM, Aalen (2005)
- [7] H. Brosinsky, ‘Stereoscan-Aufnahmen und Fax-Film-Bilder von Oberflächen gußeisener Motorenzylinder Technische Zeitung für praktische Metallbearbeitung, 64.Jahrgang (1970)
9. 著作権:
*この資料は、ミヒャエル・ヘッシュル、ヴォルフラム・ヴァゲナー、ヨハン・ヴォルフの論文:「BMW's Magnesium-Aluminium Composite Crankcase, State-of-the-Art Light Metal Casting and Manufacturing」に基づいています。
*論文ソース: doi:10.4271/2006-01-0069
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