高気密性ダイカスト部品の気孔欠陥を克服:バルブプレート金型設計の革新

この技術概要は、旷鑫文、张正来、贾志欣の各氏によって執筆され、「铸造 (FOUNDRY)」(2019年)に掲載された学術論文「高気密性閥板圧鋳模具設計及実践」に基づいています。

Fig. 1 3D model of aluminum valve plate for automobile
Fig. 1 3D model of aluminum valve plate for automobile

キーワード

  • 主要キーワード: 高気密性ダイカスト
  • 副次キーワード: 気孔欠陥, 金型設計, 冷却システム, バルブプレート, 鋳造方案, CAE解析

エグゼクティブサマリー

  • 課題: 新エネルギー車向けアルミ合金製バルブプレートは、複雑な形状と厳しい気密性要求から、気孔やヒケ巣などの内部欠陥が発生しやすいという問題を抱えていました。
  • 手法: 鋳造シミュレーション(CAE)を活用し、湯流れ・凝固解析に基づいて、金型の澆口・排気システム、冷却システム、および突き出し機構を体系的に最適化しました。
  • 主要なブレークスルー: 水路と高圧スポット冷却を組み合わせた高度な温度制御、深穴コアピンに対する霧化式冷却、および歯車・ラック式突き出し機構の採用により、内部欠陥を大幅に削減し、製品品質を安定させました。
  • 結論: 合理的な金型設計は、高気密性が要求される複雑なダイカスト部品の品質、金型寿命、および生産効率を同時に向上させるための鍵となります。

課題:この研究がHPDC専門家にとって重要な理由

新エネルギー車の性能向上に伴い、バルブプレートのような基幹部品には極めて高い気密性が求められます。しかし、この論文で取り上げられたA380アルミ合金製バルブプレートは、最小肉厚2.81mm、最大肉厚9.53mmという著しい肉厚差、複数の深穴(深さ径比14)やスライド構造を持つ複雑な形状をしています。

このような部品を従来のダイカスト法で生産しようとすると、以下の問題が頻発します。 - 気孔欠陥: 溶湯中のガスや金型キャビティ内の巻き込み空気が原因で、特に厚肉部に気孔が発生し、気密性を損ないます。 - ヒケ巣・ヒケ割れ: 肉厚差による不均一な凝固が原因で、最終凝固部に体積収縮による欠陥が生じます。 - 変形: 複雑な形状のため、突き出し時に製品が変形しやすい。

これらの問題は製品の不良率を高め、生産性を著しく低下させます。本研究は、これらの根本原因を分析し、金型設計の段階から問題を解決するための具体的なアプローチを提示しており、同様の課題に直面するすべてのHPDC専門家にとって非常に価値のある知見を提供します。

アプローチ:方法論の解明

本研究では、欠陥のない高品質なバルブプレートを安定生産するため、CAE解析を基盤とした多角的な金型設計最適化が行われました。

手法1:湯流れ・排気システムの最適化 CAEによる湯流れ解析を繰り返し実施。キャビティ内でのガスの巻き込みを最小限に抑えるため、4ヶ所の内堰の位置と形状を最適化し、製品内の乱流や合流を抑制しました。また、湯流れ末端には11ヶ所のオーバーフローと、ガス排出効率の高い波形状のチルベントを配置し、キャビティ内のガスを効果的に排出する設計としました。

手法2:統合的な金型構造と高度な冷却システム 熱伝導の均一性を高めるため、多数の入れ子を組み合わせる構造ではなく、一体構造に近い金型コアを採用しました。これにより、金型全体の温度分布が安定し、局所的な過熱を防ぎます。冷却システムには、広範囲をカバーする冷却水管と、局所を強力に冷却する高圧スポット冷却を併用。特に、欠陥が発生しやすい深穴コアピン(バルブ穴、ピストン穴)内部には、ピン全体を均一に冷却できる「霧化式スポット冷却」という革新的な技術を導入しました。

手法3:安定した突き出し機構の採用 製品の突き出し時の変形を防ぐため、従来のガイドピン・ブッシュ方式に加え、金型脚部の四隅に「歯車・ラック機構」を設置しました。これにより、突き出しプレートの動きの同期性と平行度が確保され、複雑な形状の製品でも安定した離型が可能になりました。

ブレークスルー:主要な発見とデータ

この最適化された金型設計は、生産現場で顕著な成果をもたらしました。

発見1:内部欠陥の大幅な削減と品質の安定化

統合された金型構造と高度な冷却システムにより、金型温度の精密な制御が可能になりました。特に霧化式冷却は、深穴内部のヒケ巣発生を効果的に抑制しました。その結果、CT検査で要求される厳しい品質基準(内部気孔・ヒケ巣径0.3mm未満、気孔率5%未満)をクリアし、製品合格率は98%に達しました。図8は、この金型で製造され、機械加工を終えた高品質なバルブプレート製品を示しています。

発見2:高い生産性と金型寿命の実現

最適化された金型設計は、品質向上だけでなく、生産効率にも大きく貢献しました。ロボットによるスプレー塗布の自動化と組み合わせることで、8時間あたり600個という高い生産量を達成しました。また、局所的な熱負荷の低減や、スライド部に設けられた内部スプレー・エアブロー機構による焼き付き防止策により、金型は15万ショットの寿命を達成し、生産コストの削減にも繋がりました。

研究開発および製造現場への実践的示唆

  • プロセスエンジニア向け: この研究は、水路と高圧スポット冷却の組み合わせ、特に霧化式冷却が、熱だまり(ホットスポット)の解消に極めて有効であることを示唆しています。複雑な形状の部品では、CAEによる熱解析に基づいた冷却設計が不可欠です。
  • 品質管理チーム向け: 表1に示されるように、部品の各部位で気孔に対する要求レベルが異なります。特にシール面や機能穴周辺では、CT検査による内部品質の厳格な管理が、製品の信頼性を保証する上で重要となります。
  • 設計エンジニア向け: 金型設計の初期段階で、多数の入れ子を避けた一体的なコア構造を検討することは、熱管理を容易にし、品質の安定に繋がります。また、図7で示された歯車・ラック機構のように、製品形状に応じて突き出し機構の剛性と同期性を高める設計が、変形不良の防止に有効です。

論文詳細


高気密性閥板圧鋳模具設計及実践

1. 概要:

  • 題名: 高気密性閥板圧鋳模具設計及実践
  • 著者: 旷鑫文¹, 张正来¹, 贾志欣²
  • 発表年: 2019
  • 発表誌/学会: 铸造 (FOUNDRY)
  • キーワード: 圧鋳件気孔; 圧鋳模; 冷却系統

2. 要旨:

ダイカスト部品に気孔が発生する原因を分析し、アルミ合金製バルブプレート部品の高い気密性要求および構造的特徴に基づき、金型において合理的な金型コア構造、澆注・排気システムを設計した。高気密性が要求される穴部では冷却を強化し、エアブロー・スプレー塗布構造を設置した。水路と高圧スポット冷却を組み合わせた方式で金型温度を監視・制御することで、製品の品質を確保し、金型寿命と生産効率を向上させた。

3. 序論:

新エネルギー車用のバルブプレート部品(図1)は、単品質量2.1 kg、材質A380、寸法280mm×170mm×53mmの板状筐体部品である。製品構造は複雑で、離型時に変形しやすい。構造的特徴として、(1)著しく不均一な肉厚(最小2.81mm、最大9.53mm)と複数のホットスポットが存在し、気孔やヒケ巣が発生しやすい。(2)深さ径比が14に達する2つの深穴(バルブ穴)がある。(3)両側面にそれぞれ2つの深いピストン穴がある。(4)バルブ穴、ピストン穴、バルブプレート面など、多くの部位で厳しい気孔要求があり、特に2つのバルブ穴内部はCT検査で内部気孔径0.3mm未満、気孔率5%未満という厳しい品質が求められる。このダイカスト部品の難点は、厳格な気密性要求(表1)と、突き出し時の変形しやすさにある。

4. 研究の概要:

研究トピックの背景:

アルミダイカスト部品における気孔欠陥は、製品の機械的特性や気密性を損なう主要な問題である。特に、新エネルギー車のような高性能が要求される分野では、この問題の解決が不可欠である。

従来研究の状況:

気孔の発生原因として、(1)溶湯の精錬・脱ガス不良、(2)金型の排気不良、(3)不適切な鋳造パラメータによるガスの巻き込み、(4)凝固収縮によるヒケ巣、(5)製品の肉厚差に起因する複合的な欠陥、などが知られている。これらの原因に対し、それぞれ対策が提案されてきたが、本研究のような複雑形状で高気密性が要求される部品に対する体系的な金型設計アプローチは十分に確立されていなかった。

研究の目的:

新エネルギー車用バルブプレートの厳しい気密性要求を満たすため、気孔欠陥の発生を抑制するダイカスト金型の設計手法を確立し、その有効性を実践を通じて検証すること。具体的には、金型の構造、澆注・排気システム、冷却システム、突き出しシステムを最適化し、高品質な製品の安定生産を実現する。

研究の核心:

本研究の核心は、CAE解析を駆使して、(1)湯流れとガス排出を最適化する澆注・排気システム、(2)熱伝導を均一化する一体的な金型コア構造、(3)水路と高圧スポット冷却(特に深穴コアピンに対する霧化式冷却)を組み合わせた高度な温度制御システム、(4)変形を防ぐ安定した突き出しシステムを統合的に設計した点にある。これらの設計思想を実用金型に適用し、その性能を生産現場で実証した。

5. 研究方法

研究設計:

本研究は、事例研究と実験的設計を組み合わせたアプローチを採用している。まず、特定の製品(アルミ合金製バルブプレート)が抱える課題(気孔欠陥)の原因を理論的に分析した。次に、CAEシミュレーションを用いて複数の設計案(澆注システム、冷却システム等)を評価・最適化し、最終的な金型設計を決定した。最後に、製作した金型を実際の生産ラインに投入し、製品の品質(合格率)、生産性(サイクルタイム)、金型寿命を評価することで、設計の有効性を検証した。

データ収集・分析方法:

  • シミュレーション: CAEソフトウェアを用いて湯流れ、凝固、熱伝達の解析を行い、気孔やヒケ巣の発生予測箇所を特定した。
  • 品質評価: 生産された製品に対し、外観検査、寸法測定に加え、内部品質を評価するために工業用CTスキャンを実施し、気孔のサイズ、数、分布を定量的に評価した(表1)。
  • 生産データ: 実際の生産現場で、サイクルタイム、段取り時間、不良率、金型寿命(ショット数)などのデータを収集し、生産効率と経済性を評価した。

研究対象と範囲:

研究対象は、新エネルギー車に使用されるA380アルミ合金製の高気密性バルブプレートである。研究範囲は、この部品を製造するためのダイカスト金型の設計に焦点を当てており、特に気孔欠陥を低減するための澆注・排気システム、金型構造、冷却システム、突き出しシステムの設計と実践的な適用効果に限定される。溶湯管理や鋳造パラメータの最適化についても言及されているが、中心的なテーマは金型設計である。

6. 主要な結果:

主要な結果:

  • 合理的な澆注・排気システム(4つの内堰、11のオーバーフロー、波形チルベント)により、キャビティ内のガス巻き込みと乱流を効果的に抑制した。
  • 一体的な金型コア構造と、水路・高圧スポット冷却を組み合わせた冷却システムにより、金型温度の均一化と精密な制御を実現し、ヒケ巣と気孔欠陥を低減した。
  • 深穴コアピン用に開発された霧化式スポット冷却(図5)と、スライド部の内部スプレー・エアブロー機構(図6)により、焼き付きや局所的なヒケ巣を防止した。
  • 歯車・ラック機構を備えた突き出しシステム(図7)により、複雑形状部品の安定した突き出しを実現し、変形不良を防止した。
  • 上記の対策を施した金型により、製品合格率98%、生産量600個/8時間、金型寿命15万ショットという高い生産性と品質を達成した。

図の名称リスト:

Fig. 2 Gating system and vent system for valve plate casting
Fig. 2 Gating system and vent system for valve plate casting
Fig. 3 Core and cavity for valve plate casting
Fig. 3 Core and cavity for valve plate casting
Fig. 5 Cooling pipe for improving the cooling effect
Fig. 5 Cooling pipe for improving the cooling effect
  • Fig. 1 3D model of aluminum valve plate for automobile
  • Fig. 2 Gating system and vent system for valve plate casting
  • Fig. 3 Core and cavity for valve plate casting
  • Fig. 4 Cooling system for fixed die core
  • Fig. 5 Cooling pipe for improving the cooling effect
  • Fig. 6 Schematic diagram of inner spray and gas blow structure on sliding block
  • Fig. 7 Gear and rack mechanism for ejector system
  • Fig. 8 Machined valve plate casting

7. 結論:

本稿では、新エネルギー車用バルブプレートを生産するための金型構造を示し、気孔を減少させるための対策を重点的に論じた。冷却水管と高圧スポット冷却を組み合わせ、特に小型コア部位の冷却とエアブロー構造を強化し、合理的な澆注・排気システム設計を通じて金型温度を監視・制御することで、製品の品質を確保し、金型寿命と生産効率を向上させた。

8. 参考文献:

  • [1] 潘宪曾. 压铸模设计手册 [M]. 北京: 机械工业出版社, 2006.
  • [2] 崔黎明, 姚三九, 苏建磊. 铝合金泵盖压铸件气孔缺陷分析及对策[J]. 铸造技术, 2007, 28 (12) : 1662-1665.
  • [3] 徐义武, 詹凤伟. 压铸件气孔缺陷分析及解决方案[J]. 特种铸造及有色合金, 2013, 33 (2) : 151-154.
  • [4] 历长云, 王有超, 许磊, 等. 铸造工艺参数对ADC12铝合金支架压铸件缺陷的影响[J]. 特种铸造及有色合金, 2010, 30 (12) : 1120-1122.
  • [5] 张正来, 贾志欣. 具有深孔抽芯的壳盖压铸模设计[J]. 铸造, 2018, 67 (8) : 688-691.

専門家Q&A:トップの質問に回答

Q1: なぜこの金型では、一般的な入れ子構造ではなく、一体的な金型コア構造を採用したのですか?

A1: 論文によると、多数の入れ子を組み合わせる構造は、入れ子間の接触面で熱伝達が阻害され、金型全体の温度分布が不均一になりやすいという問題があります。これにより、局所的な過熱や冷却不足が生じ、ヒケ巣や気孔の原因となります。一体的なコア構造を採用することで、熱が迅速かつ均一に伝わり、金型温度の安定した制御が可能になるため、鋳造欠陥のリスクを低減できるからです。

Q2: 深穴コアピンの冷却に「霧化式スポット冷却」という特殊な方法を用いた理由は何ですか?

A2: 従来の先端部から冷却水を還流させる方式では、コアピンの先端付近しか効果的に冷却できず、根元部分が高温になりがちでした。この温度不均一が、深穴内部でのヒケ巣の原因となります。図5に示される霧化式冷却は、冷却媒体を霧状にしてコアピン内部に噴射することで、ピンの成形部全体を均一かつ効率的に冷却できます。これにより、深穴の全長にわたって均一な凝固を促進し、品質を向上させるために採用されました。

Q3: 突き出し機構に歯車・ラック機構を追加したのはなぜですか?

A3: このバルブプレートは形状が複雑で、突き出し時に一部だけが先に動いたり、傾いたりすると、製品に応力がかかり変形やカジリの原因となります。図7のように、従来のガイドピン・ブッシュに加えて歯車・ラック機構を四隅に配置することで、突き出しプレートが完全に平行な状態で同期して動作することを保証します。これにより、製品全体に均等な突き出し力を加え、安定した離型を実現するために追加されました。

Q4: CAE解析は、この金型設計において具体的にどのような役割を果たしましたか?

A4: CAE解析は主に2つの目的で使用されました。第一に、湯流れ解析を通じて、最適な澆口(ゲート)の位置や形状を決定し、溶湯がスムーズに充填され、空気の巻き込みが最小限になるようにしました。第二に、熱解析(凝固解析)を行い、製品のどこが最後に凝固する「ホットスポット」になるかを予測しました。この情報に基づき、高圧スポット冷却を効果的な位置に配置するなど、冷却システムを最適化し、ヒケ巣の発生を未然に防ぐ設計を行う上で決定的な役割を果たしました。

Q5: スライド部に内部スプレーとエアブロー機構を設けたのはなぜですか?

A5: 図6に示されているこの機構は、特に長いコアピンの焼き付きを防ぐためのものです。開いた金型に外部から離型剤をスプレーするだけでは、深くて狭いバルブ穴の表面に均一な塗膜を形成するのは困難です。この機構は、スライドブロック内部からコアピン表面に直接離型剤をスプレーし、さらにエアブローで余分な離型剤を除去して均一な膜厚を確保します。これにより、溶融アルミニウムとの接触摩擦を低減し、スムーズな型抜きと金型の保護を実現します。

結論:より高い品質と生産性への道を開く

本稿で詳述された高気密性ダイカスト部品の製造における課題は、多くの製造現場が直面するものです。気孔欠陥という根本的な問題に対し、CAE解析に基づく澆注・排気システムの最適化、高度な冷却システムによる精密な温度制御、そして安定した突き出し機構という体系的なアプローチが、品質と生産性を劇的に向上させる鍵であることが示されました。この研究は、複雑な部品の製造において、金型設計がいかに重要であるかを改めて浮き彫りにしています。

CASTMANでは、最新の業界研究を応用し、お客様の生産性と品質の向上を支援することをお約束します。この論文で議論された課題がお客様の事業目標と一致する場合、これらの原則をお客様の部品にどのように適用できるか、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。

著作権情報

このコンテンツは、旷鑫文、张正来、贾志欣の各氏による論文「高気密性閥板圧鋳模具設計及実践」に基づく要約および分析です。

出典: 本稿は学術雑誌「铸造 (FOUNDRY)」 Vol.68 No.8 2019 に掲載された論文を引用しています。

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