相変化材料(PCM)による鋳造凝固制御:Al-Cu合金の柱状晶から等軸晶への遷移を最適化する新手法

Numerical simulation of the effects of a Phase Change Material (PCM) on solidification path of gravity sand cast Al-Cu alloy

この技術概要は、Z. Noohi、B. Niroumand、G. Timelliによって執筆され、La Metallurgia Italiana(2021年)に掲載された学術論文「Numerical simulation of the effects of a Phase Change Material (PCM) on solidification path of gravity sand cast Al-Cu alloy」に基づいています。

Fig.1 - Schematics of the casting moulds: (a) Chill sample and (b) PCM sample.
Fig.1 - Schematics of the casting moulds: (a) Chill sample and (b) PCM sample.
Fig.2 - (a) Experimental T-t curves for both PCM and Chill samples and (b) Location of three thermocouples at 10, 35, and 60 mm from the chiller surface in both PCM and Chill samples, one thermocouple in the chiller (Chill sample) and two thermocouples, i.e. Zn1 and Zn2, in the PCM (PCM sample).
Fig.2 - (a) Experimental T-t curves for both PCM and Chill samples and (b) Location of three thermocouples at 10, 35, and 60 mm from the chiller surface in both PCM and Chill samples, one thermocouple in the chiller (Chill sample) and two thermocouples, i.e. Zn1 and Zn2, in the PCM (PCM sample).

キーワード

  • 主要キーワード: 鋳造凝固制御
  • 副次キーワード: 相変化材料 (PCM), Al-Cu合金, 柱状晶から等軸晶への遷移 (CET), マクロ組織制御, 重力砂型鋳造

エグゼクティブサマリー

  • 課題: 鋳造品の機械的特性を決定する凝固組織(柱状晶と等軸晶のバランス)を精密に制御することは、従来の技術では困難でした。
  • 手法: 研究者らは、標準的なチル(冷却材)を用いたAl-Cu合金の鋳造と、相変化材料(PCM)として純亜鉛を組み込んだチルを用いた鋳造を比較しました。
  • 主要なブレークスルー: PCMは溶融時に潜熱を吸収することで局所的な冷却速度を変化させ、標準的なチルを用いた場合と比較して柱状晶領域を拡大させることに成功し、新たな凝固制御の可能性を実証しました。
  • 結論: PCMの利用は、鋳造品の凝固経路と最終的なマクロ組織を操作するための革新的な手法であり、コンポーネントの性能向上に繋がる可能性があります。

課題:なぜこの研究がダイカスト専門家にとって重要なのか

鋳造品の機械的・物理的特性は、その凝固組織に大きく左右されます。特に、一方向に成長する柱状晶と、微細で均一な等軸晶のバランスは、製品の強度、延性、耐食性などを決定づける重要な要素です。従来、冷却速度の制御、接種、振動印加などの方法が用いられてきましたが、これらの手法では、鋳物全体の組織を意図通りに、かつ精密に制御するには限界がありました。特に複雑形状の部品では、局所的な冷却条件の違いが不均一な組織を生み、性能のばらつきや欠陥の原因となります。この研究は、より能動的かつ効果的に凝固組織を制御する新しいアプローチを提示しており、ダイカスト業界が直面する品質向上と欠陥削減という継続的な課題に対する画期的な解決策となり得ます。

アプローチ:研究手法の解明

この研究では、Al-Cu合金の凝固組織に対する相変化材料(PCM)の効果を評価するため、実験とシミュレーションを組み合わせたアプローチが採用されました。

手法1:実験的鋳造比較 研究チームは、2種類の鋳型を用意しました。一つは「チルサンプル」と呼ばれ、鋳型の端に固体低炭素鋼のチル(30x30x13 mm³)を配置したものです。もう一方は「PCMサンプル」と呼ばれ、純亜鉛を充填した鋼製容器(30x30x25 mm³)をチルとして使用しました。鋳造合金にはAl-4.5wt.%Cu-0.2wt.%Feが用いられ、750°Cに過熱された後、それぞれの鋳型に注湯されました。鋳物内とチル/PCM内にK型熱電対を配置し、1秒間隔で温度データを収集しました。

手法2:数値シミュレーション 実験結果を検証し、より詳細な熱伝達メカニズムを理解するために、ProCast 2018ソフトウェアを用いた数値シミュレーションが実施されました。鋳物、チル、PCM、ランナーシステム、鋳型、断熱材など、各要素に対して詳細なメッシュが作成され、界面の熱伝達係数(表1参照)などのパラメータが設定されました。これにより、実験では測定が困難な凝固界面での冷却速度や温度勾配を正確に評価することが可能になりました。

ブレークスルー:主要な発見とデータ

発見1:PCMによる柱状晶領域の拡大とCETの遅延

マクロ組織の分析結果(図3)は、PCMが凝固組織に顕著な影響を与えることを示しました。チルサンプルでは柱状晶領域の長さが約38mmであったのに対し、PCMサンプルでは約41mmにまで拡大しました。これは、PCMが柱状晶から等軸晶への遷移(CET)を遅らせたことを意味します。PCMが溶融する際にアルミニウム合金から潜熱を吸収することで、凝固界面の温度勾配が維持され、柱状晶がより長く成長できる環境が作られたと考えられます。

発見2:PCMの溶融による冷却速度の変化

温度測定データ(図2)とシミュレーション結果(図4)は、PCMの熱吸収効果を明確に示しています。PCMサンプルでは、PCM(純亜鉛)がその融点である419.5°Cに達した後、温度上昇が一時的に停滞し、潜熱を吸収している様子が確認されました。シミュレーションによると、チルから10mmの位置における固相線近傍の冷却速度は、チルサンプルで4.6 °C/sであったのに対し、PCMサンプルでは7.7 °C/sと、より高い値を示しました。これは、PCMが溶融した後は、PCMの熱物性(鋼よりも高い熱伝導率など)と潜熱吸収の効果により、チルとしての冷却能力が標準的な鋼製チルを上回ったことを示唆しています。

研究開発および運用への実践的な示唆

  • プロセスエンジニア向け: この研究は、特定の領域の組織を制御するために、チルとしてPCMを利用することが有効であることを示唆しています。これにより、部品の特定部位の機械的特性を向上させるなど、より高度な鋳造方案の設計が可能になるかもしれません。
  • 品質管理チーム向け: 論文の図3と図4のデータは、PCMの有無がマクロ組織(柱状晶の長さ)と冷却速度に与える影響を明確に示しており、これは新しい品質検査基準を策定する際の参考情報となり得ます。
  • 設計エンジニア向け: 凝固中の熱の流れをPCMによって能動的に制御できるという発見は、凝固欠陥(例:引け巣)の発生を抑制するための設計上の考慮事項となり得ます。チルとしてPCMを組み込むことで、最終凝固部を意図した位置に移動させることが可能になるかもしれません。

論文詳細


Numerical simulation of the effects of a Phase Change Material (PCM) on solidification path of gravity sand cast Al-Cu alloy

1. 概要:

  • タイトル: Numerical simulation of the effects of a Phase Change Material (PCM) on solidification path of gravity sand cast Al-Cu alloy
  • 著者: Z. Noohi, B. Niroumand, G. Timelli
  • 発行年: 2021
  • 掲載誌/学会: La Metallurgia Italiana - International Journal of the Italian Association for Metallurgy
  • キーワード: MACROSTRUCTURE CONTROL, GRAVITY SAND CASTING, PHASE CHANGE MATERIALS (PCMS), COLUMNAR TO EQUIAXED TRANSITION (CET)

2. 要旨:

凝固組織は金属材料の機械的・物理的特性に大きな影響を与え、その制御は材料性能向上のための主要な研究テーマである。本稿では、相変化材料(PCM)を用いた鋳造時の凝固組織制御の新しい手法に関する予備的な結果を報告する。方向性凝固させたAl-Cu合金を、PCMとして純亜鉛を用いた砂型と用いなかった砂型に鋳込み、その凝固組織の進展を実験とシミュレーションを用いて調査した。その結果、アルミニウム合金の凝固中にPCMの温度が約510°Cに達し、凝固するアルミニウム合金溶湯からその融解潜熱を吸収し、局所的な凝固冷却速度に影響を与えることが示された。そのため、PCMを装着した鋳型で鋳造されたサンプルの凝固組織は、PCMなしのサンプルとは異なっていた。両サンプルのマクロ組織は柱状晶から等軸晶への遷移を示したが、PCMサンプルの柱状晶領域はPCMなしのサンプルよりも大きかった。言い換えれば、PCMなしのサンプルの柱状晶から等軸晶への遷移(CET)は、PCMありのサンプルよりも早く起こった。さらに、チルサンプルの等軸晶の平均粒径はPCMサンプルよりも小さい。

3. 緒言:

アルミニウム鋳造合金は、優れた熱伝導性・電気伝導性、適切な鋳造性、良好な溶接性、軽量性、高い耐食性といった特性から、自動車、スポーツ、航空宇宙産業で広く利用されている。冷却速度、電磁場の印加、方向性凝固などの様々なプロセスパラメータが、鋳造マクロ・ミクロ組織および凝固経路に影響を与えることが知られている。金属やグラファイトのチルを使用することは、最終的な鋳造組織を制御し、引け巣欠陥を最小限に抑えた鋳物を製造するもう一つの方法である。本稿では、相変化材料(PCM)を用いて金属合金の凝固マクロ組織を制御する新しい方法を提案する。PCMは、固液相転移中に比較的一定の温度(融点)で潜熱を吸収または放出できる材料である。本研究では、PCMを金属チルに組み込み、方向性凝固させたAl-Cu合金の冷却および凝固マクロ組織への影響を、実験とシミュレーションを用いて調査する。

4. 研究の概要:

研究トピックの背景:

アルミニウム合金の鋳造において、最終製品の機械的特性を決定する凝固組織の制御は極めて重要である。特に柱状晶と等軸晶の分布と遷移(CET)は、性能を左右する主要因である。

従来研究の状況:

従来、凝固組織の制御には、冷却速度の調整、接種剤の添加、電磁場や振動の印加、方向性凝固といった手法が用いられてきた。また、チル材を用いて局所的な冷却を促進する方法も一般的であるが、チル材は熱を吸収すると飽和するため、その効果には限界があった。

研究の目的:

本研究の目的は、相変化材料(PCM)をチルシステムに組み込むという新しいアプローチを提案し、そのAl-Cu合金の凝固経路とマクロ組織への影響を明らかにすることである。PCMが相変化する際の潜熱吸収を利用して、凝固プロセス中の熱抽出を能動的に制御することを目指す。

研究の核心:

本研究では、標準的な鋼製チルを用いた場合(チルサンプル)と、PCMとして純亜鉛を内蔵したチルを用いた場合(PCMサンプル)の2つの条件下で、Al-Cu合金の重力砂型鋳造を行った。温度測定と鋳造後のマクロ組織観察、さらにProCastソフトウェアによる数値シミュレーションを組み合わせることで、PCMが凝固中の冷却速度と、結果として生じる柱状晶から等軸晶への遷移(CET)に与える影響を定量的・定性的に評価した。

5. 研究方法

研究デザイン:

本研究は、PCMの有無がAl-Cu合金の凝固組織に与える影響を比較する実験的デザインを採用している。チルサンプル(対照群)とPCMサンプル(実験群)の2つの条件を設定し、それぞれの温度変化と最終的なマクロ組織を比較分析した。さらに、実験結果を補完・検証するために数値シミュレーションが並行して行われた。

データ収集・分析方法:

データ収集は、鋳物内およびチル/PCM内に設置された複数のK型熱電対を用いて、1秒のサンプリングレートで温度-時間(T-t)曲線を記録することにより行われた。鋳造後、サンプルを縦方向に切断し、研磨後、ケラー試薬でエッチングしてマクロ組織を可視化した。柱状晶領域の長さはImageJソフトウェアを用いて測定された。数値シミュレーションにはProCast 2018ソフトウェアが使用され、実験で得られたT-t曲線と比較検証された。

研究対象と範囲:

研究対象は、Al-4.5wt.%Cu-0.2wt.%Fe合金の方向性凝固プロセスである。チル材として低炭素鋼、PCMとして市販の純亜鉛が使用された。研究の範囲は、PCMの利用が凝固中の冷却プロファイルと、最終的なマクロ組織、特に柱状晶から等軸晶への遷移(CET)に与える影響を評価することに限定される。

6. 主要な結果:

主要な結果:

  • PCMサンプルの柱状晶領域はPCMなしのサンプルよりも長く(PCMサンプル: 41 mm、チルサンプル: 38 mm)、PCMがCETを遅らせることが示された。
  • PCM(純亜鉛)は、アルミニウム合金の凝固中に融点(419.5 °C)に達し、潜熱を吸収することで、局所的な冷却プロファイルを変化させた。
  • PCMサンプルは、PCMの溶融効果により、チルサンプルよりも速い冷却を示した。特に、PCM溶融後は、PCMの熱物性により冷却能力が増大した。
  • シミュレーションによると、チル界面から10mmの位置での冷却速度は、チルサンプルで4.6 °C/s、PCMサンプルで7.7 °C/sであり、PCMが冷却を促進する効果が確認された。
  • CET形成時のG/R比(温度勾配/凝固速度)は、チルサンプルで14.9 °C·s/cm²、PCMサンプルで0.05 °C·s/cm²であり、チルサンプルの方がCETが起こりやすい条件であったことが示された。

Figure Name List:

Fig.3 - Macrostructure of (a) Chill and (b) PCM samples.
Fig.3 - Macrostructure of (a) Chill and (b) PCM samples.
Fig.4 - Experimental and numerical cooling curves for (a) Chill and (b) PCM samples.
Fig.4 - Experimental and numerical cooling curves for (a) Chill and (b) PCM samples.
  • Fig.1 - Schematics of the casting moulds: (a) Chill sample and (b) PCM sample.
  • Fig.2 - (a) Experimental T-t curves for both PCM and Chill samples and (b) Location of three thermocouples at 10, 35, and 60 mm from the chiller surface in both PCM and Chill samples, one thermocouple in the chiller (Chill sample) and two thermocouples, i.e. Zn1 and Zn2, in the PCM (PCM sample).
  • Fig.3 - Macrostructure of (a) Chill and (b) PCM samples.
  • Fig.4 - Experimental and numerical cooling curves for (a) Chill and (b) PCM samples.

7. 結論:

本稿では、相変化材料(PCM)を用いてAl-Cu合金の凝固マクロ組織を制御する新しい手法を、実験とシミュレーションを用いて研究した。結果として、亜鉛PCMを金属チルに組み込むことが、方向性凝固したAl-Cu合金の冷却および凝固条件に影響を与えることが示された。両サンプルで柱状晶から等軸晶への遷移(CET)が観察されたが、亜鉛PCMを装着したサンプルの方がCETが遅く起こった。この効果は、凝固の初期段階におけるPCMの融解潜熱の吸収、およびPCMとチル材料の異なる熱物理的特性に起因すると考えられる。結果に基づき、提案された手法は鋳物の凝固マクロ組織を制御するための革新的な冷却システムとして利用できる可能性がある。

8. 参考文献:

  • [1] Qi M, Li J, Kang Y. Correlation between segregation behavior and wall thickness in a rheological high pressure die-casting AC46000 aluminum alloy. J. Mater. Res. Technol. 2019; 8: 3565-3579.
  • [2] Babaee M.H, Niroumand B, Maleki A, Lashani Zand M. Simulation and experimental verification of interfacial interactions in compound squeeze cast Al/Al-Cu macro composite bimetal. T NONFERR METAL SOC. 2019; 29: 950-963.
  • [3] Agrahari S, Panda I, Patel F. M, Gupta M, P. Mohanty C. Effect of cooling rate on microstructures and mechanical property of Al 1230 alloy in a sand casting process. Mater. Today: Proc. 2020; 26:1771-1775.
  • [4] He C, Li Y, Li J, Xu G, Wang Z, Wu D. Effect of electromagnetic fields on microstructure and mechanical properties of sub-rapid solidification-processed Al-Mg-Si alloy during twin-roll casting. Mater. Sci. Eng. A. 2019; 766.
  • [5] de Souza Baptista L.A., Paradela K. G, Ferreira I. L, Garcia A, Ferreira A. F. Experimental study of the evolution of tertiary dendritic arms and microsegregation in directionally solidified Al-Si-Cu alloys castings. J. Mater. Res. Technol. 2019; 8: 1515-1521.
  • [6] Campbell J. United Kingdom: Butterworth-Heinemann; 2015. 204-207 p.
  • [7] Campbell F.C. United States of America: ASM International; 2012. 433-436 p.
  • [8] Lazzarin, R.M, Mancin S, Noro M, Righetti G. Hybrid PCM-aluminium foams' thermal storages: an experimental study. Int. J. Low-Carbon Technol. 2018; 13: 286-291.
  • [9] Sun D, Wang L. Research on heat transfer performance of passive solar collector-storage wall system with phase change materials. Energy build. 2016; 119: 183-188.
  • [10] Mousa H, Gujarathi A.M. Modeling and analysis the productivity of solar desalination units with phase change materials. Renew. Energy. 2016; 95: 225-232.
  • [11] Smithells C.J. London and United States of America: Elsevier; 2013. 941-943 p.
  • [12] MatWeb. Overview of materials for Low Carbon Steel (Last visted on 20/8/2021)
  • [13] Crow E. L, Shimizu K. Lognormal distribution. United States of America: 1998.
  • [14] Dong H. B, Lee P. D. Simulation of the columnar-to-equiaxed transition in directionally solidified Al-Cu alloys. Acta Mater. 2005; 53: 659-668.
  • [15] Hadadzadeh A, Shalchi Amirkhiz B, Li J, Mohammadi M. Columnar to equiaxed transition during direct metal laser sintering of AlSi10Mg alloy: effect of building direction. Addit Manuf. 2018; 23: 121-131.
  • [16] Mahapatra R.B, Weinberg F. The columnar to equiaxed transition in tin-lead alloys. METALL MATER TRANS B. 1987.

専門家Q&A:よくある質問への回答

Q1: なぜ相変化材料(PCM)として純亜鉛が選ばれたのですか?

A1: 本研究では純亜鉛がPCMとして選ばれました。その融点(419.5 °C)が、凝固するAl-Cu合金から効率的に熱を吸収するのに適しているためです。実験データ(図2)では、PCMの温度が約510°Cまで上昇しており、凝固プロセス中にPCMが効果的に溶融し、その潜熱を吸収して冷却に寄与したことが示されています。この潜熱吸収能力が、従来のチル材にはない能動的な熱制御を可能にしました。

Q2: PCMサンプルとチルサンプルの最終的なマクロ組織の主な違いは何でしたか?

A2: 最も大きな違いは、柱状晶領域の長さと柱状晶から等軸晶への遷移(CET)が起こる位置です。論文の図3によると、PCMサンプルの柱状晶領域は約41mmであり、チルサンプルの約38mmよりも長くなっています。これはPCMの使用がCETを遅らせたことを意味します。また、等軸晶の平均粒径も異なり、チルサンプルが1.8 ± 1.3 mmであったのに対し、PCMサンプルは2.2 ± 1.8mmと、より大きい結果となりました。

Q3: PCMは冷却速度にどのように影響しましたか?

A3: 凝固の初期段階では、両サンプルの冷却能力は同等に設計されていました。しかし、PCMが溶融を開始すると状況が変わりました。PCMが潜熱を吸収し、さらに液体となった亜鉛の熱伝導性が鋼よりも優れているため、PCMサンプルの冷却速度はチルサンプルを上回りました。シミュレーション結果では、チルから10mmの位置で、PCMサンプルの冷却速度は7.7 °C/sに達し、チルサンプルの4.6 °C/sを大幅に上回っています。

Q4: 論文ではPCMセットアップの「エアギャップ」について言及されていますが、その効果は何でしたか?

A4: PCMは鋼製の容器に封入されていたため、初期にはPCM(純亜鉛)と容器の間に微小なエアギャップが存在しました。このエアギャップは初期の熱伝達をわずかに妨げました。しかし、鋳造されたアルミニウム合金からの熱でPCMが溶融し始めると、液体となった亜鉛が容器内部を満たし、エアギャップは実質的になくなります。これにより、鋳物とPCM間の熱伝達が飛躍的に向上し、効率的な潜熱吸収が可能になりました。

Q5: 柱状晶から等軸晶への遷移(CET)を制御することの実用的な意義は何ですか?

A5: CETの位置を制御することは、鋳造品の機械的特性を部位ごとに調整する上で非常に重要です。一般的に、柱状晶は一方向の強度に優れ、等軸晶はより均一で等方的な特性を示します。CETの位置を制御できれば、例えば、高い方向性が求められる部分には柱状晶を、靭性や均一性が重要な部分には等軸晶を意図的に形成させることが可能になり、部品全体の性能を最適化できます。

結論:より高い品質と生産性への道を開く

本稿で紹介された研究は、鋳造における鋳造凝固制御の難題に対し、相変化材料(PCM)という革新的な解決策を提示しました。PCMの潜熱を利用することで、凝固中の冷却プロファイルを能動的に操作し、最終製品のマクロ組織、特に柱状晶と等軸晶のバランスを精密に制御できる可能性が示されました。このブレークスルーは、研究開発や製造現場において、より高性能で信頼性の高い鋳造部品を製造するための新たな道筋を示すものです。

CASTMANでは、お客様がより高い生産性と品質を達成できるよう、最新の業界研究を応用することに尽力しています。本稿で議論された課題がお客様の事業目標と一致する場合、これらの原理を貴社のコンポーネントにどのように実装できるか、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。

著作権情報

このコンテンツは、Z. Noohi、B. Niroumand、G. Timelliによる論文「Numerical simulation of the effects of a Phase Change Material (PCM) on solidification path of gravity sand cast Al-Cu alloy」に基づく要約および分析です。

出典: La Metallurgia Italiana - November/December 2021, pp. 25-30. (DOIやURLは原文に記載がないため省略)

この資料は情報提供のみを目的としています。無断での商業利用は禁じられています。 Copyright © 2025 CASTMAN. All rights reserved.