水性NaClおよび塩水噴霧環境におけるCe添加A383およびAural 2アルミニウム合金の表面腐食応答

リサイクル材の課題を克服:セリウム添加によるアルミニウム合金の腐食耐性向上技術

本技術概要は、Michael James Thompson氏が2023年に発表した修士論文「Surface Corrosion Response of Al Alloys A383 and Aural 2 with Ce Additions in Aqueous NaCl and Salt-fog Environments」に基づいています。

Figure 1: Schematic of a Tafel plot identifying anodic and cathodic branches, and values for corrosion potential (OCP) and corrosion current density.
Figure 1: Schematic of a Tafel plot identifying anodic and cathodic branches, and values for corrosion potential (OCP) and corrosion current density.

キーワード

  • 主要キーワード: アルミニウム合金 腐食耐性
  • 副次キーワード: セリウム添加, A383合金, Aural 2合金, 銅不純物, ダイカスト, 塩水噴霧試験, リサイクルアルミニウム

エグゼクティブサマリー

  • 課題: リサイクルアルミニウム合金に多く含まれる銅は、腐食耐性を著しく低下させ、その用途を制限する主要因となっています。
  • 手法: 2種類のAl-Si系ダイカスト合金(A383、Aural 2)に銅と様々な量のセリウムを添加し、塩水溶液および塩水噴霧環境下での腐食応答を調査しました。
  • 重要なブレークスルー: 最大1.5 wt.%のセリウムを添加することで、銅などの不純物をより安定した金属間化合物内に捕捉し、腐食耐性が大幅に向上することが明らかになりました。
  • 結論: セリウム添加は、高濃度の銅を含むリサイクルアルミニウム合金の腐食耐性を高める実用的な戦略であり、厳しい環境下での応用可能性を拡大します。

課題:なぜこの研究がHPDC専門家にとって重要なのか

アルミニウムは、その軽量性と高強度から自動車産業に不可欠な材料ですが、その生産は大きな課題を抱えています。米国で使用されるアルミニウムの70%以上がリサイクル原料(二次合金)に由来しており、これはエネルギー消費の大きい一次合金の生産に比べてコストと環境負荷を大幅に削減できるためです。

しかし、この持続可能なアプローチには大きな技術的障壁が存在します。リサイクル原料には、不純物として銅(Cu)が高濃度で含まれることが多くあります。銅は強度向上に寄与する一方で、アルミニウムマトリックスとの間にガルバニックセルを形成し、粒界腐食の起点となることで、合金の腐食耐性を著しく低下させます。このため、高い耐食性が求められる部品には、高価な一次合金を混合して不純物を希釈するか、リサイクル原料の使用を諦めざるを得ないのが現状でした。

本研究は、このトレードオフの関係、すなわち「コスト・環境性能」と「腐食耐性」のジレンマを解決することを目的としています。希土類元素であるセリウム(Ce)を意図的に添加することで、有害な銅不純物を無害化し、リサイクル原料の価値を最大限に引き出す新たな合金設計の可能性を探ります。

アプローチ:研究手法の解明

本研究では、ダイカストで広く使用される2種類のAl-Si系合金の腐食挙動に対する銅とセリウム添加の影響を評価するために、体系的かつ厳密な実験が行われました。

使用合金と添加元素: - ベース合金: A383(不純物許容度が高い)およびAural 2(不純物管理が厳しい)の2種類のAl-Si系ダイカスト用合金。 - 添加元素: リサイクル材を模擬するため、まず0.6 wt.%の銅(Cu)を添加。その後、セリウム(Ce)を0.5 wt.%から2.5 wt.%の範囲で段階的に添加しました。

鋳造方法: - ダイカスト特有の急速凝固を再現するため、水冷式の銅製金型を用いて鋳造サンプルを作製しました。これにより、実際の製造プロセスに近い微細構造を持つ試験片が得られました。

腐食評価試験: - 電気化学的評価: Gamry社の装置を用い、0.1 Mの塩化ナトリウム(NaCl)水溶液中で動電位分極(PDP)試験を実施。これにより、腐食速度や腐食電位といった定量的な耐食性データを短時間で取得しました。 - 環境暴露試験: ASTM B117規格に準拠した塩水噴霧試験を1800時間にわたって実施。より実環境に近い条件下での長期的な腐食挙動(孔食の深さや形態)を評価しました。

微細構造解析: - 走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)、X線回折(XRD)を用いて、合金の微細構造、金属間化合物の形態と組成、および腐食生成物を詳細に分析しました。

ブレークスルー:主要な研究結果とデータ

本研究により、セリウム添加がアルミニウム合金の腐食耐性に与える有益な効果が、データに基づいて明確に示されました。

発見1:セリウムは銅に起因する腐食を効果的に抑制し、1.5 wt.%で最適化される

銅の添加は合金の腐食速度を増加させますが、セリウムを添加することでこの悪影響を劇的に抑制できることが明らかになりました。論文のTable 4に示されるように、Aural 2合金に0.6 wt.%の銅を添加すると腐食速度は0.14 mpyに増加しますが、セリウムを添加していくと腐食速度は顕著に低下し、1.5 wt.%のセリウム添加時に0.05 mpyと最小値を記録しました。これは、銅添加状態と比較して約64%の腐食速度低減に相当します。しかし、1.5 wt.%を超えてセリウムを添加すると、腐食速度は再び増加する傾向が見られ、最適な添加量が存在することが示唆されました。

発見2:セリウムは微細構造を改質し、より耐食性の高い金属間化合物を形成する

セリウムが腐食耐性を向上させるメカニズムは、その高い反応性にあります。論文のFigure 3およびFigure 4のSEM画像で確認できるように、セリウムは銅(Cu)や鉄(Fe)といった不純物元素と優先的に反応し、Al-Ce-Si系やAl-Ce-Cu系の安定した金属間化合物を形成します。これにより、腐食の起点となりやすいAl₂Cuのような有害な相が粒界に形成されるのを防ぎます。この「ゲッタリング(捕捉)」効果により、不純物は無害化され、合金全体の耐食性が向上します。

研究開発および製造現場への実用的な示唆

本研究の成果は、ダイカスト部品の設計、製造、品質管理に携わる専門家にとって、具体的で実用的な指針を提供します。

  • プロセスエンジニアへ: 高濃度の銅を含むリサイクル原料を使用する際、溶湯に1.5 wt.%前後のセリウムを制御して添加することで、最終製品の腐食耐性を大幅に改善できる可能性が示唆されます。これにより、材料コストを削減しつつ、品質要求を満たすことが可能になります。
  • 品質管理チームへ: 論文のFigure 8(動電位分極曲線)およびFigure 11(最大腐食深さ)のデータは、セリウム含有量と腐食性能の間に明確な相関関係があることを示しています。これは、腐食環境下で使用される部品の新しい材料仕様や受け入れ基準を策定する際の、科学的根拠となり得ます。
  • 設計エンジニアへ: これまで腐食の問題で採用が見送られていた、よりコスト効率が高く持続可能なリサイクルアルミニウム合金を、様々な用途へ展開できる道が開かれます。セリウムを添加した合金を材料として指定することは、製品の長寿命化と競争力向上に直結する可能性があります。

論文詳細


[論文タイトル] 水性NaClおよび塩水噴霧環境におけるCe添加A383およびAural 2アルミニウム合金の表面腐食応答

1. 概要:

  • タイトル: Surface Corrosion Response of Al Alloys A383 and Aural 2 with Ce Additions in Aqueous NaCl and Salt-fog Environments
  • 著者: Michael James Thompson
  • 出版年: 2023
  • ジャーナル/学会: Master's Thesis, University of Tennessee, Knoxville
  • キーワード: Aluminum alloys, Corrosion resistance, Cerium, A383, Aural 2, Copper impurity, Die-casting, Salt-fog, NaCl solution

2. 抄録:

銅は、固溶強化および析出強化によってアルミニウム合金の強度を高めるために一般的に使用されるが、腐食耐性は合金中の銅の量に反比例する。米国でアルミニウム合金の製造に使用される材料の70%以上はリサイクル(二次)合金であり、その多くは重量で1%以上の銅含有量を持つ。銅を不純物と見なす厳しい公差を持つ合金は、多くのリサイクル原料を利用することができず、不純物を仕様内に希釈するために新たに加工された(一次)アルミニウムを追加する必要がある。一次アルミニウムは、ボーキサイトなどの原料からアルミニウムを製造するために必要な一連のエネルギー集約的なプロセスのため、製造コストがはるかに高い。セリウムをアルミニウム合金に添加すると、銅などの不純物をより耐食性の高い金属間化合物に結合させることで、これらの不純物に対する許容度を高めることができる。これにより、最も腐食損傷が発生する粒界での銅枯渇層が緩和される。本研究では、2つのAl-Siダイカスト合金の基地合金、および0.6重量%の銅と最大2.5重量%のセリウムを添加した後のNaCl塩水溶液中での腐食応答と微細構造変化を調査した。腐食耐性はセリウム添加量に直接関係し、1.5重量%のセリウムで最も顕著な改善が見られた。それ以上のセリウム添加は、腐食耐性へのさらなる利益をもたらさなかった。組成および構造の特性評価手法を用いて、NaCl塩水溶液への暴露中に形成された腐食生成物を特定した。腐食損傷の大部分は、Al(FeMn)Si系の金属間化合物とAlマトリックスの界面で観察された。

3. 序論:

アルミニウム(Al)合金は、その強度対重量比、耐食性、耐衝撃性から、自動車部品の製造において主要な選択材料となっている。アルミニウム生産は、一次アルミニウム、二次アルミニウム、および下流工程の3つのセグメントに分けられる。一次アルミニウムは、ボーキサイトの採掘と精製によって製造される。二次アルミニウムは、リサイクルされるスクラップから成り、これには使用済み製品(オールドスクラップ)と加工時に発生する端材(ニュースクラップ)が含まれる。米国では、一次アルミニウムの生産量に対し、二次アルミニウム(スクラップ)の使用量がはるかに多く、二次アルミニウムは一次アルミニウムに比べて約90%もエネルギー効率が高い。しかし、二次アルミニウムには銅(Cu)などの不純物が多く含まれる傾向がある。アルミニウム合金において、銅は強度を高める一方で、Al₂Cuなどの相を粒界に形成し、ガルバニック腐食を引き起こすことで耐食性を著しく低下させる。本研究では、希土類元素であるセリウム(Ce)を合金添加物として利用することに着目した。Ceは、Cuや鉄(Fe)などの不純物元素を捕捉し、より安定で耐食性の高い金属間化合物を形成する能力がある。これにより、リサイクル原料の使用率を高め、より持続可能で経済的なアルミニウム合金の生産に貢献する可能性がある。

4. 研究の概要:

研究トピックの背景:

自動車産業における軽量化の要求からアルミニウム合金の利用が拡大しているが、コストと環境負荷の観点からリサイクル原料の活用が不可欠である。しかし、リサイクル原料に含まれる銅不純物が腐食耐性を低下させることが、その利用を制限する大きな技術的課題となっている。

従来の研究状況:

セリウムがアルミニウム合金において、鉄、ニッケル、銅などの不純物を捕捉(スカベンジング)し、機械的特性や耐熱性を向上させることが報告されている。しかし、特に銅不純物の存在下での腐食挙動に対するセリウム添加の体系的な影響については、まだ十分に解明されていない。

研究の目的:

本研究の目的は、銅を意図的に添加した2種類のAl-Si系ダイカスト合金(A383およびAural 2)において、セリウム添加が表面腐食応答に与える影響を定量的に評価することである。これにより、リサイクル原料の許容度を高めるための合金設計指針を確立することを目指す。

研究の中核:

研究の中核は、セリウム添加量(0~2.5 wt.%)をパラメータとし、微細構造の変化と腐食性能(電気化学的測定および塩水噴霧試験)の関係を明らかにすることにある。特に、セリウムがどのように銅と相互作用し、どのような金属間化合物を形成し、それが腐食メカニズムにどう影響するかを解明することに重点を置いた。

5. 研究方法

研究デザイン:

本研究は、2種類のベース合金(A383、Aural 2)と、それらに0.6 wt.%の銅、さらに0.5~2.5 wt.%のセリウムを添加した合金群を比較する実験的デザインを採用した。

データ収集と分析方法:

作製した合金試料に対し、以下の手法でデータ収集と分析を行った。 - 微細構造分析: 走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素マッピングと点分析、X線回折(XRD)による相の同定。 - 腐食試験: 0.1 M NaCl水溶液中での動電位分極(PDP)測定による腐食電流密度(Icorr)と腐食電位(Ecorr)の算出。ASTM B117規格に準拠した塩水噴霧試験(1800時間)後のSEM観察による最大腐食深さの測定。

研究対象と範囲:

研究対象は、Al-Si系ダイカスト合金であるA383およびAural 2。セリウムの添加量は0 wt.%から2.5 wt.%の範囲とした。腐食環境は、水性NaCl溶液と塩水噴霧環境の2種類とした。

6. 主要な結果:

主要な結果:

  • A2合金は、銅含有量が低いことから、ベース合金の状態でA383合金よりも高い耐食性を示した。
  • セリウムは銅や鉄と高い反応性を持ち、これらの不純物を「ゲッタリング」して耐食性の高い金属間化合物を形成し、合金の腐食性能に対する負の影響を緩和した。
  • 1.5 wt.%までのセリウム添加は、両合金において腐食速度の低下をもたらした。
  • 1.5 wt.%を超えるセリウム添加は、腐食速度を再び増加させた。
  • Al(FeMn)Si系およびCeリッチ系の金属間化合物の界面は、腐食に対して敏感な領域であることが確認された。
  • NaCl塩水溶液への暴露により、Al₂O₅Si、Al₂O₃、SiO₂、Cu₂O、Al(OH)₃などの腐食生成物が形成された。

Figure Name List:

  • Figure 1: Schematic of a Tafel plot identifying anodic and cathodic branches, and values for corrosion potential (OCP) and corrosion current density.
  • Figure 2: XRD scans of A383, A383+0.6Cu+2.5Ce, A2, A2+0.6Cu+2.5Ce shown a log scale stacked plot.
  • Figure 3: BSE micrographs depicting the distribution of phases in (a) A383, (b) A383+0.6Cu, (c)A383+0.6Cu+1.5Ce and (d) A383+0.6Cu+2.5Ce. An increase in the amount of Cu2Al can be seen after the addition Cu is introduced, and the bright phase is due to Ce additions.
  • Figure 4: BSE micrographs showing the distribution of phases in (a) A2, (b) A2+0.6Cu, (c) A2+0.6Cu+1.5Ce and (d) A2+0.6Cu2.5Ce. The addition of Cu was mostly found in the Al(FeMn)Si intermetallics rather than Cu2Al. The bright intermetallics were much less prevalent in A2 compared to A383.
  • Figure 5: XRD scans of A383 and A383+0.6Cu+2.5Ce after corrosion showing the peaks of oxides and hydroxides including Al2O5Si, Al2O3, SiO2, Cu2O, and Al(OH)3. Selected areas are magnified to help with oxide identification.
  • Figure 6: XRD scans of A2 and A2+0.6Cu+2.5Ce showing peaks of major uncorroded phases and oxides present. Selected areas are magnified to help with oxide identification.
  • Figure 7: Tafel curves for A383 and A2 depicting the cathodic and anodic branches along with the relative Ecorr and Icorr values. The lower Icorr value and raised shape of the anodic branch of A2 shows the alloy’s higher resistance to corrosion compared to A383.
  • Figure 8: Potentiodynamic curves for alloys (a) A383 with Cu and Ce additions and (b) A2 with Cu and Ce additions, and measured Ecorr, Icorr, and corrosion rate for (c) A383 with Cu and Ce additions and (d) A2 with Cu and Ce additions. Corrosion rate decreased in both alloys with Ce additions up to 1.5 wt.% Ce after Cu was added. Further additions of Ce caused the corrosion rate to increase.
  • Figure 9: BSE micrographs of corroded samples (a) A383, (b) A383+0.6Cu, (c) A383+0.6Cu+1.5Ce, and (d) A383+0.6Cu+2.5Ce after salt fog exposure for 1800 hrs showing oxides and corrosion pits resulting from the experiment.
  • Figure 10: BSE micrographs of corroded samples (a) A2, (b) A2+0.6Cu, (c) A2+0.6Cu+1.5Ce, and (d) A2+0.6Cu+2.5Ce after salt fog exposure for 1800 hrs showing oxides and corrosion pits resulting from the experiment.
  • Figure 11: Maximum measured corrosion depths for all tested samples from SEM micrographs. The blue and pink bars correspond to A383 and A2 samples respectively.
  • Figure 12: Schematic diagram representing corrosion phenomena including formation of corrosion products and local cell formation at (a) Si-rich segregated regions, (b) interfaces of Ce-rich phases and Al-matrix, (c) corrosion response at the interface of Al matrix and Al(FeMn)Si (d) BSE micrographs of A383+0.6Cu+2.5Ce and (e)BSE micrographs of A2+0.6Cu+2.5Ce.

7. 結論:

本研究では、銅およびセリウムを添加した2種類のAl-Si系ダイカスト合金を鋳造し、動電位分極試験と塩水噴霧暴露試験によって腐食応答を評価した。この研究から、以下の結論が得られた。

  1. 両合金は良好な鋳造性を示したが、A2合金は銅含有量が少ないため、A383合金と比較して高い耐食性を示した。
  2. 両合金は、α-Al(Al-Si合金)、偏析Si、およびAl(FeMn)Si、Al₂Cu、AlCeSiを含む様々なアルミニウム化物で構成されている。
  3. セリウムは銅や鉄などの元素と高い反応性を持ち、これらの不純物を「ゲッタリング」して耐食性の高い金属間化合物構造を促進する。これにより、合金の腐食性能に対する負の影響が緩和される。
  4. 1.5 wt.%までのセリウム添加は、両合金において腐食電流(Icorr)と腐食速度の値を減少させる。一方、2.5 wt.%までのさらなる添加は、腐食モードを粒界腐食から面腐食へと変化させる。
  5. Al(FeMn)SiおよびCeリッチ相の界面は腐食に敏感であり、その界面で局所的な孔食と腐食生成物の形成をもたらすが、セリウムは粒界腐食に対してより良い保護を提供する。
  6. NaCl塩水溶液への暴露は、腐食生成物としてAl₂O₅Si、Al₂O₃、SiO₂、Cu₂O、およびAl(OH)₃の形成を引き起こす。
  7. セリウムの添加は、耐食性Al合金の設計において効果的な合金化戦略である。

8. 参考文献:

  • [1] S. K. Das, J. A. S. Green, and J. G. Kaufman, “The development of recycle-friendly automotive aluminum alloys,” JOM, vol. 59, no. 11, pp. 47–51, Nov. 2007, doi: 10.1007/s11837-007-0140-2.
  • [2] R. S. Long, E. Boettcher, and D. Crawford, “Current and Future Uses of Aluminum in the Automotive Industry,” JOM, vol. 69, no. 12, pp. 2635–2639, Dec. 2017, doi: 10.1007/s11837-017-2554-9.
  • [3] D. Adamović, T. Vujinović, F. Živić, J. Živković, and M. Topalović, “Application of Aluminum and ITS Alloys in the Automotive Industry With Special Emphasis PN Wheel Rims,” JTTTP - J. TRAFFIC Transp. THEORY Pract., vol. 6, no. 2, Oct. 2020, doi: 10.7251/JTTTP2102087A.
  • [4] S. Montijo, “What is Aluminum Used for: Automotive Edition,” Kloeckner Metals Corporation, Apr. 28, 2021. https://www.kloecknermetals.com/blog/what-is-aluminum-used-for-automotive-edition/ (accessed Feb. 27, 2023).
  • [5] “Mineral commodity summaries 2022,” Reston, VA, Report 2022, 2022. doi: 10.3133/mcs2022.
  • ... (and all other references as listed in the paper)
  • [25] A. V. Iyer, H. Lim, O. Rios, Z. Sims, and D. Weiss, “An Economic Model and Experiments to Understand Aluminum-Cerium Alloy Recycling,” JOM, vol. 70, no. 4, pp. 547–552, Apr. 2018, doi: 10.1007/s11837-018-2764-9.

専門家Q&A:トップエンジニアの疑問に答える

Q1: なぜこの研究ではA383とAural 2という2つの合金が選ばれたのですか?

A1: これら2つの合金は、ダイカスト業界で広く使用されていますが、不純物に対する許容度が異なります。A383は比較的高い不純物許容度を持ち、Aural 2はより厳しい成分管理が要求されます。この2つを比較することで、セリウム添加の効果が、異なる品質基準を持つ様々な工業用合金に対してどのように作用するかを包括的に評価できるため、研究対象として選ばれました。

Q2: 腐食耐性を最大化するためのセリウムの最適添加量はどのくらいですか?

A2: 本研究の結果、腐食耐性の改善効果は1.5 wt.%のセリウム添加で最大となることが示されました。この添加量で腐食速度が最も低くなりました。1.5 wt.%を超えて添加すると、針状のCe含有相の割合が増加し、これが新たな腐食起点となる可能性があるため、腐食耐性は逆に低下する傾向が見られました。

Q3: セリウムは具体的にどのようにして腐食耐性を向上させるのですか?

A3: セリウムは化学的に非常に活性が高く、アルミニウムよりも先に銅や鉄といった不純物元素と結合します。これにより、腐食の主な原因となる粒界でのAl₂Cu相の形成を抑制し、代わりにAl-Ce-Cu系などのより安定で耐食性の高い金属間化合物を形成します。この不純物の「捕捉(ゲッタリング)」メカニズムが、合金全体の耐食性を向上させる鍵となります。

Q4: セリウムを添加することで、機械的特性(強度や延性など)に悪影響はありますか?

A4: 本論文は腐食特性に焦点を当てており、機械的特性については評価していません。しかし、論文の「今後の課題(Future work)」セクションでは、セリウム添加が引張強度、延性、疲労寿命に与える影響を評価するために、引張試験、曲げ試験、疲労試験を実施する必要があると述べられています。これらの特性を理解することは、実用化に向けた次の重要なステップとなります。

Q5: セリウムを添加しても、腐食損傷は主にどこで発生しますか?

A5: セリウム添加によって全体の耐食性は向上しますが、腐食が完全になくなるわけではありません。本研究では、腐食損傷の大部分は、依然としてAl(FeMn)Si系の金属間化合物とアルミニウムマトリックスの界面で観察されました。また、新たに形成されたCeリッチ相とマトリックスの界面も腐食の起点となり得ることが示唆されています。

Q6: このセリウム添加技術は、他のアルミニウム合金にも応用可能ですか?

A6: はい、その可能性は非常に高いです。「今後の課題」セクションで言及されているように、このアプローチは他のアルミニウム合金系にも拡張できる可能性があります。例えば、海洋環境で使用される5000系合金の粒界腐食(鋭敏化)防止や、高い銅含有量のために耐食性クラッド材を必要とする2000系合金への応用などが有望な研究対象として挙げられています。

結論:より高い品質と生産性への道を拓く

リサイクルアルミニウムに含まれる銅不純物は、長らくアルミニウム合金の腐食耐性を損なう主要因であり、コストと性能のトレードオフを製造業者に強いてきました。本研究は、1.5 wt.%のセリウムを添加するというシンプルかつ効果的な手法により、この課題を克服できることを明確に示しました。セリウムは有害な不純物を無害な金属間化合物へと変化させ、より安価で持続可能なリサイクル原料から、高い信頼性を持つ部品を製造する新たな可能性を切り拓きます。

CASTMANでは、こうした最新の業界研究を応用し、お客様の生産性と品質の向上を支援することに尽力しています。本稿で議論された課題がお客様の事業目標と合致する場合、これらの原理を貴社の部品にどのように実装できるか、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。

著作権情報

このコンテンツは、Michael James Thompson氏による論文「Surface Corrosion Response of Al Alloys A383 and Aural 2 with Ce Additions in Aqueous NaCl and Salt-fog Environments」を基にした要約および分析です。

出典: https://trace.tennessee.edu/utk_gradthes/9239

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