本稿は、「The 13th OpenFOAM Workshop (OFW13), June 24-29, 2018, Shanghai, China」にて発表された論文「TOWARDS THE MODELING OF FLUID-STRUCTURE INTERACTIVE LOST CORE DEFORMATION IN HIGH-PRESSURE DIE CASTING」を基に作成されています。

1. 概要:
- 論文名: TOWARDS THE MODELING OF FLUID-STRUCTURE INTERACTIVE LOST CORE DEFORMATION IN HIGH-PRESSURE DIE CASTING
- 著者: SEBASTIAN KOHLSTÄDT¹, MICHAEL VYNNYCKY², JAN JÄCKEL³, LUDGER LOHRE⁴
- 発表年: 2018年
- 学術誌/学会: The 13th OpenFOAM Workshop (OFW13), June 24-29, 2018, Shanghai, China
- キーワード: compressible two-phase flow, fluid-structure interaction, high-pressure die casting, lost salt cores, solver development, experimental validation
2. アブストラクト:
本稿では、高圧ダイカスト(HPDC)プロセスにおける消失塩コアの流体構造連成(FSI)をシミュレーションするための数値モデルの開発と検証について詳述する。OpenFOAM C++ツールボックスを利用し、圧縮性二相流(溶融金属と空気)と変形可能な固体コアとの相互作用を扱うために、fsiFoamソルバーフレームワーク内に新しいソルバークラスFSI::compInterFluidを実装した。このソルバーは標準的なOpenFOAMソルバーと比較してベンチマーク評価された。その後、このモデルは単純化された鋳造形状における塩コアの変形をシミュレーションするために適用され、その結果はコアの変形を示し、溶湯によって加えられる力に関する洞察を提供した。これらのシミュレーション結果は、実際のダイカスト試験から得られた実験データと比較検証され、同等のコア変形を示し、HPDCにおける消失塩コア使用の実現可能性を評価するモデルの潜在能力を確認した。
3. 緒言:
高圧ダイカスト(HPDC)は、自動変速機ハウジングやギアボックス部品などの自動車部品を大量かつ低コストで製造するための重要なプロセスである[1, 2]。HPDCでは、液体金属(通常はアルミニウムまたはマグネシウム)が複雑なゲートおよびランナーシステムを介して、高速(通常50~100 m/s)かつ高圧(最大100 MPa)で金型に射出される。アンダーカットや中空部(例:冷却用またはオイルフローチャネル用)を作成するために消失塩コアを使用することは、現在まで困難であることが証明されている[3, 4, 5, 6]。消失コアの材料として塩を使用するというアイデアは、機械メーカーや自動車会社によって提案されている[7, 8]。これが実際に実行可能かどうかを判断する1つの方法は、数値シミュレーションを用いることである[9]。本稿は、HPDCプロセス中の流体構造連成によるこのような消失コアの変形をモデリングすることに焦点を当てる。
4. 研究の概要:
研究トピックの背景:
本研究は、自動車部品製造に不可欠なプロセスである高圧ダイカスト(HPDC)を背景としている。鋳造部品に複雑な内部形状を作成するために消失塩コアを使用することに対する産業界の関心があり、これによりエンジニアの設計自由度が向上する可能性がある。しかし、過酷なHPDC環境での塩コアの成功裏な実装は、大きな課題に直面している。
従来の研究状況:
従来の研究や産業界の経験によれば、HPDCプロセス内で消失塩コアを使用することは困難であった[3]。塩コアを使用するというアイデアは提案されているものの[7, 8]、鋳造条件下でのその挙動を理解することが重要である。数値シミュレーションは、消失塩コアの実現可能性を評価するための重要なツールとして提案されている[9]。
研究の目的:
本研究の主な目的は、高圧ダイカスト中の消失塩コアの流体構造連成による変形をシミュレーションできる数値モデルを開発し、検証することである。これには、二相流体の複雑な物理現象と変形可能なコアとの相互作用を正確に捉えることができるソルバーの作成が含まれる。
研究の核心:
本研究の核心は、溶融金属と空気の二相流と変形可能な塩コアとの相互作用をモデリングすることである。これには、この流体構造連成(FSI)問題に適したOpenFOAMフレームワーク内の特定のソルバークラスFSI::compInterFluidの開発が含まれる。また、この新しいソルバーのベンチマーク評価と、シミュレーション結果を実験的なダイカスト試験と比較検証するプロセスも含まれる。
5. 研究方法論
研究計画:
本研究は以下のいくつかの段階で計画された:
- 流体(二相流)および固体(塩コア)領域の数学的モデリング。
- 特定のFSI問題を扱うために既存のライブラリを変更することにより、OpenFOAMフレームワーク内に適切な数値ソルバーを開発。
- 検証のために、新しく開発されたソルバーを既存の確立されたソルバーと比較してベンチマーク評価。
- 単純化されたHPDCシナリオにおける消失コア変形をシミュレーションするテストケースにソルバーを適用。
- 塩コアを用いたダイカスト実験を実施し、観察された変形をシミュレーション予測と比較することによる実験的検証。
データ収集および分析方法:
流体側モデリング:
溶融金属と空気の二相流は、VOF(Volume of Fluid)法を用いてモデル化された[10]。支配方程式は以下の通りである:
- 連続の式:
∂ρ/∂t + ∇·(ρU) = 0
(1) - 運動量方程式(ナビエ・ストークス):
∂(ρU)/∂t + ∇·(ρUU) = -∇p + ∇·{(μ + μ_tur)(∇U + (∇U)ᵀ)} + ρg + F_s
(2) - VOF輸送方程式:
∂γ/∂t + ∇·(γU) + ∇·(γ(1-γ)U_r) = (γ/ρ_g) ∂ρ_g/∂t + (γ/ρ_g) U·∇ρ_g
(3) (注:論文の式(3)の右辺には、γとρgに関して誤植があるように思われる。提供されたOCRは可能な限り正確に転記した。本文では、UrをMULES [11,14]によって相界面を圧縮するための補助速度場として説明している。) - 物性値ρ(密度)およびμ(動粘性係数)は次のように定義される:
ρ = γρ_l + (1-γ)ρ_g
(4)μ = γμ_l + (1-γ)μ_g
(5) - 空気はバロトロピック流体として扱われる:
ρ_g = p/(R_sT) = pψ
(6) - 乱流はMenter k-ω-SSTモデルを用いてモデル化された[15]。
- 表面張力
F_s
はCSF(Continuum Surface Force)法によってモデル化された[13]。
固体側モデリング:
塩コアの変位 D
は応力方程式によって支配される:
ρ_s ∂²D/∂t² - ∇·[(2μ_s + λ_s)∇D] = ∇·q
(7)
ここでρ_s
は固体密度、λ_s
およびμ_s
はラメ定数、q
は流体圧力および粘性力による荷重である。
ソルバー開発およびテスト:
- C++ツールボックスOpenFOAM [17, 18]が使用された。
- 予想される大きな変形のため、foam-extendプロジェクトのfsiライブラリ[19]内のfsiFoamソルバーが選択された。
- compressibleInterDyMFoamの方法論をfsi流体ソルバーの要件に適合するクラスに実装することにより、新しいソルバークラスFSI::compInterFluidが開発された。これには、標準的なPIMPLEアルゴリズムの変更が含まれた。
- 新しいソルバークラスは、damBreakチュートリアルケースを使用して、標準のcompressibleInterDyMFoamと比較してベンチマーク評価された。
実験的検証:
- シミュレーションで使用されたメッシュ体の形状に類似した(3点曲げ試験に類似した)実験用金型が製作された。
- この金型は、シミュレーションで使用されたものと同じプロセスパラメータを使用して、高圧ダイカストマシンでテストされた。
- 鋳造された塩コアの変形を観察し、シミュレーション結果と比較した。
研究トピックと範囲:
本研究は、高圧ダイカストという特定の文脈における、圧縮性二相流と変形可能な消失塩コアが関与する流体構造連成(FSI)のモデリングに焦点を当てる。その範囲には、この目的のための専用の数値ソルバーをOpenFOAMを用いて開発、実装、ベンチマーク評価、および実験的に検証することが含まれる。本研究は、コアの変形を予測し、溶湯の流れがコアに及ぼす影響を理解することを目的とする。
6. 主な結果:
主な結果:
- 新しいソルバークラスFSI::compInterFluidが、OpenFOAMのfsiFoamソルバー内に正常に開発・実装された。このクラスは、FSIアプリケーションのためにcompressibleInterDyMFoamの方法論を適応させるものである。
- damBreakケースにおけるFSI::compInterFluidと標準のcompressibleInterDyMFoamとのベンチマーク比較では、両者が相フィールド(γ)に対して同一の流動場結果を生成することが示され、新しいソルバークラスの流体力学部分の実装が検証された(Figure 2)。
- 単純化されたHPDCセットアップにおける塩コアのシミュレーションでは、溶湯がコアに衝突した直後に2.5 mmの範囲でコアが変形すると予測された(Figure 3)。コアは最初に振動し、その後、それを迂回する流れによって一定に変位することが観察された。
- 特別に設計された金型と実際のHPDCプロセスを用いた実験的検証が行われた。鋳造された試作品では、流入する溶湯によってコアが対称的に曲げられ、その変位は2 mmを超える大きさであり、CFDシミュレーション結果(Figure 3)と同等であった(Figure 4)。
- 本研究では(著者らによる未発表の研究を引用し)、コアに対する最も大きな予想される影響は、コア界面での気相から溶融相への遷移時に発生することが指摘された。
図の名称リスト:
- Figure 1: Solving process scheme of fsiFoam Solver
- Figure 2: γ-field comparsion of compressibleInterDyMFoam and FSI::compInterFluid at 0,4 s
- Figure 3: The deformation of the salt core as result of the CFD simulation.
- Figure 4: The deformation of the salt core in a casting experiment.
7. 結論:
本研究は、高圧ダイカストにおける流体構造連成による消失コア変形のモデリング手法を成功裏に実証した。OpenFOAM fsiFoamフレームワーク内に新しいソルバークラスFSI::compInterFluidを開発し、圧縮性二相流と変形可能な固体との相互作用のシミュレーションを可能にした。数値シミュレーションは、実際のダイカスト試験から得られた実験結果と良好に一致するコア変形を予測した。この研究は、HPDCにおける消失塩コアの使用の実現可能性を評価するために採用できる検証済みのツールを提供し、複雑な自動車部品の鋳造における設計自由度の向上につながる可能性がある。また、この知見は、初期の溶湯-空気界面遷移時におけるコアへの重大な影響を浮き彫りにしている。
8. 参考文献:
- [1] B. Nogowizin, Theorie und Praxis des Druckgusses, 1. Edition ed. Berlin: Schiele und Schoen, 2010.
- [2] E. Brunnhuber, Praxis der Druckgussfertigung. Berlin: Schiele und Schoen, 1991.
- [3] B. Fuchs, H. Eibisch, and C. Körner, “Core viability simulation for salt core technology in high-pressure die casting," Int. J. Metalcasting, vol. 7, pp. 39–45, 2013.
- [4] E. Graf and G. Soell, “Vorrichtung zur Herstellung eines Druckgussbauteils mit einem Kern und einem Einlegeteil," 2003, dE Patent DE2,001,145,876.
- [5] E. D. I. Graf and G. D. I. Söll, “Verfahren zur Herstellung eines Zylinderkurbelgehäuses," 2008, dE Patent DE200,710,023,060.
- [6] S. Kohlstädt, U. Rabus, S. Goeke, and S. Kuckenburg, "Verfahren zur Herstellung eines metallischen Druckgussbauteils unter Verwendung eines Salzkerns mit integrierter Stützstruktur und hiermit hergestelltes Druckgussbauteil," 2016, dE Patent DE201,410,221,359.
- [7] P. Jelínek and E. Adámková, “Lost cores for high-pressure die casting," Archives of Foundry Engineering, vol. 14, no. 2, pp. 101–104, 2014.
- [8] T. Schneider, S. Kohlstädt, and U. Rabus, “Gehäuse mit Druckgussbauteil zur Anordnung eines elektrischen Fahrmotors in einem Kraftfahrzeug und Verfahren zur Herstellung eines Druckgussbauteils," 2016, dE Patent DE201,410,221,358.
- [9] B. Fuchs and C. Körner, "Mesh resolution consideration for the viability prediction of lost salt cores in the high pressure die casting process," Prog. Comp. Fluid Dyn., vol. 14, pp. 24–30, 2014.
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- [19] P. Cardiff, Ž. Tuković, H. Jasak, and A. Ivanković, “A block-coupled finite volume methodology for linear elasticity and unstructured meshes,” Computers & structures, vol. 175, pp. 100–122, 2016.
9. 著作権:
- 本資料は、「SEBASTIAN KOHLSTÄDT, MICHAEL VYNNYCKY, JAN JÄCKEL, LUDGER LOHRE」による論文です。「TOWARDS THE MODELING OF FLUID-STRUCTURE INTERACTIVE LOST CORE DEFORMATION IN HIGH-PRESSURE DIE CASTING」に基づいています。
- 論文の出典:[DOI URL] (原論文には記載なし。本論文は The 13th OpenFOAM Workshop (OFW13) の議事録からのものです。)
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