【品質向上】アルミダイカストの湯流れを制す!シミュレーションによる連結ブラケットの欠陥撲滅とプロセス最適化
本技術概要は、[韓 偉, 盧 健能, 江 麗珍, 楊 安, 欧 俊杰] 氏による学術論文「アルミ合金連結ブラケットのダイカスト数値シミュレーションとプロセス最適化」に基づいています。掲載誌:[特种铸造及有色合金] ([2025年])。

キーワード
- 主要キーワード: アルミダイカスト
- 副次キーワード: 連結ブラケット, 数値シミュレーション, プロセス最適化, 湯流れ, ポロシティ, 欠陥予測
エグゼクティブサマリー
- 課題: 新エネルギー車向けアルミ合金製連結ブラケットの不均一な肉厚が、湯流れのアンバランスとポロシティ欠陥を引き起こしていました。
- 手法: Magma®ソフトウェアを用いて充填・凝固プロセスをシミュレーションし、P-Q²線図解析に基づいてゲートシステムを最適化しました。
- 主要なブレークスルー: インゲートの形状とサイズを修正し、オーバーフローを追加することで、各エリアの充填流量と圧力を均一化し、欠陥リスクを大幅に低減しました。
- 結論: 複雑形状のダイカスト部品において、内部組織の緻密性と生産品質を向上させるためには、プロセスシミュレーションと的を絞ったゲートシステムの最適化が不可欠です。
課題:なぜこの研究がHPDC専門家にとって重要なのか
新エネルギー車の電動モーターに使用されるアルミ合金製連結ブラケットは、多様な動力部品との接続を可能にするため、内部に不均一なフレームや薄肉のリブが多数設計されています。このような複雑な形状は、高圧ダイカスト(HPDC)において大きな課題となります。
従来の製造プロセスでは、不均一な肉厚構造が原因で、溶融アルミニウム(湯)が金型キャビティ内を流れる際の速度と流量にアンバランスが生じます。特に、機械加工が必要となる重要な箇所で、ガス巻き込みによるポロシティ(気孔)、湯境(コールドシャット)、湯回り不良といった欠陥が発生し、製品の寸法精度や締結・組立機能の実現を著しく阻害していました。これらの問題は、歩留まりの低下とコスト増に直結するため、業界にとって解決すべき喫緊の課題でした。
アプローチ:その手法を解き明かす
本研究では、シミュレーションを駆使した体系的なアプローチにより、これらの課題解決に取り組みました。
手法1:構造分析と初期プロセスシミュレーション まず、製品の構造的特徴と後工程での機械加工要件に基づき、連結ブラケットを3つのプロセスエリア(A、B、C)に分割しました(図1参照)。材質には流動性と耐食性に優れたA356.2アルミニウム合金を使用。次に、初期設計のゲート・オーバーフローシステム(図2)とプロセスパラメータ(表1)を用いて、Magma®ソフトウェアによるダイカストプロセスの数値シミュレーションを実施。湯流れ、温度変化、圧力分布を可視化し、欠陥発生の傾向を予測しました。
手法2:P-Q²線図解析によるゲートシステムの最適化 初期シミュレーションの結果から、湯流れのアンバランスとガス巻き込みが主要な問題点として特定されました。この問題を解決するため、ダイカストプロセスの圧力(P)と流量(Q)の関係を示すP-Q²線図(図6)を用いて、ゲートシステムの設計を科学的に評価。解析に基づき、特に湯流れが遅れていたエリアへのインゲートの断面積を拡大し、形状を滑らかな傾斜状に変更しました(図5)。さらに、ガス抜き効果を高めるために専用のオーバーフローを追加し、湯流れの安定化を図りました。
ブレークスルー:主要な発見とデータ
シミュレーションを駆使した最適化により、品質を左右する重要なプロセス要因が劇的に改善されました。
発見1:初期設計における欠陥発生箇所の正確な予測
初期設計のシミュレーションでは、充填プロセス中に湯流れの速度が不均一になり、溶湯の合流地点でガスが閉じ込められる「ガス巻き込み」現象が明確に予測されました(図3)。特に、機械加工が施されるBエリアの接合部において、空気圧が局所的に高まることが確認され(図4a)、これが加工後の内部気孔(ポロシティ)の主な原因であることが示唆されました。また、肉厚部では凝固が遅れることで「凝固収縮によるポロシティ」が発生する傾向も予測されました(図4b)。
発見2:ゲート最適化によるガス巻き込みリスクの大幅な低減
ゲートシステムの形状とサイズを最適化した結果、湯流れのバランスが改善され、欠陥の根本原因であるガス巻き込みのリスクが大幅に低減しました。シミュレーション比較によると、溶湯の合流地点で発生する最大空気圧は、初期設計の3557.979 kPaから、最適化後には2302.127 kPaへと約35%も低下しました(図7)。これは、キャビティ内のガスがスムーズに排出され、緻密な内部組織の形成が可能になったことを示しています。また、最適化されたP-Q²線図(図6b)は、プロセスが理想的な「プロセスウィンドウ」内にあることを証明しており、安定した高品質生産の実現可能性を示唆しています。
研究開発と製造現場への実践的示唆
本研究の成果は、ダイカスト部品の設計から製造、品質管理に至る各部門の専門家にとって、具体的な指針を提供します。
- プロセスエンジニア向け: 本研究は、特定のインゲートの形状や断面積を調整し、オーバーフローを追加することが、湯流れを均一化し、ガス巻き込みや収縮ポロシティを抑制する上で極めて有効であることを示唆しています。シミュレーションを活用することで、試作回数を削減し、最適なプロセス条件を効率的に見つけ出すことが可能です。
- 品質管理チーム向け: 論文中の図4および図7のデータは、特定の条件下でどの部位に欠陥が発生しやすいかを明確に示しています。これらのシミュレーション結果は、重点的に検査すべき箇所を特定するための新たな品質検査基準の策定に役立ちます。
- 設計エンジニア向け: 本研究の知見は、部品の肉厚の不均一性といった設計上の特徴が、凝固過程における欠陥形成に直接的な影響を与えることを示しています。製造性を考慮した設計(DFM)の初期段階で、シミュレーションを用いた検討を行うことの重要性を強調しています。
論文詳細
アルミ合金連結ブラケットのダイカスト数値シミュレーションとプロセス最適化
1. 概要:
- 論文名: 铝合金连接支架压铸数值模拟及工艺优化 (アルミ合金連結ブラケットのダイカスト数値シミュレーションとプロセス最適化)
- 著者: 韩 伟, 卢 健能, 江 麗珍, 杨 安, 欧 俊杰
- 発表年: 2025年
- 掲載誌/学会: 特种铸造及有色合金 (Special Casting & Nonferrous Alloys)
- キーワード: 连接支架; 数值模拟; 铝合金; 工艺优化; 压铸 (連結ブラケット; 数値シミュレーション; アルミニウム合金; プロセス最適化; ダイカスト)
2. 要旨:
本研究は、新エネルギー車用電動モーターのアルミ合金製連結ブラケットにおいて、不均一な肉厚に起因する充填流量のアンバランスおよびポロシティ等のダイカスト欠陥問題に対応するものである。ブラケット部品の構造的特徴と成形品質要求を分析し、Magma®ソフトウェアを用いて充填・凝固プロセスをシミュレーションした。部品の構造的特徴と後工程の機械加工要件に基づき、部品のプロセスエリアを区分した。溶融アルミニウムの充填時における局所的な流量アンバランスの原因を研究し、ポロシティ、湯境、引け巣といった欠陥の発生傾向を予測することで、連結ブラケットの排気・オーバーフローシステムを最適化した。ダイカストプロセスにおける圧力と流量の関係を示すP-Q²線図に基づき、インゲートの形状とサイズを改善し、各エリアの充填流量と充填圧力を均一化することで、鋳物の内部組織の緻密性と生産品質を向上させた。
3. 緒言:
高圧ダイカストプロセスを用いて、新エネルギー車の電動モーターと他の動力部品を接続するためのアルミ合金製連結ブラケットを生産する。多様な形状の動力部品との接続機能を実現するため、ブラケットの内面には多くの不均一なフレームと薄肉の連結リブが設計されている。この不均一な構造により、アルミ合金のダイカスト時に各部位の充填速度と流量にアンバランスが生じ、特に機械加工が必要な箇所でポロシティ、湯境、湯回り不良等の欠陥が発生し、寸法精度と接続・組立機能の実現に影響を及ぼしていた。本研究では、Magma®ソフトウェアを用いてダイカストの充填・凝固プロセスをシミュレーション分析し、初期プロセス設計で生じる引け巣やポロシティ等の欠陥に対し、鋳物の各エリアの機能品質要求と組み合わせてプロセス最適化を行った。
4. 研究概要:
研究トピックの背景:
新エネルギー車の普及に伴い、軽量化と高性能化を実現する複雑形状のアルミ合金部品の需要が高まっている。特に、電動モーター用連結ブラケットのような部品は、構造が複雑で高い品質要求を持つため、高圧ダイカストにおける製造技術の向上が求められている。
従来研究の状況:
本論文では明示的に言及されていないが、ダイカストプロセスの最適化手法として、数値シミュレーションソフトウェア(Magma®など)の活用や、ゲート設計の妥当性評価のためのP-Q²線図解析は、業界で確立されたアプローチであることが示唆される。本研究は、これらの手法を特定の産業用部品(連結ブラケット)の品質問題解決に適用した事例研究である。
研究の目的:
特定のアルミ合金製連結ブラケットにおいて、不均一な肉厚に起因する充填不良やポロシティといったダイカスト欠陥を解決すること。数値シミュレーションを用いてダイカストプロセスを科学的に分析し、ゲートシステムとオーバーフローシステムを最適化することで、鋳物の内部品質と生産性を向上させることを目的とする。
研究の核心:
本研究の核心は、シミュレーション主導の反復的な最適化プロセスにある。まず、部品の構造を分析し、初期の鋳造方案を設計する。次に、数値シミュレーションによってその方案の問題点(湯流れのアンバランス、ガス巻き込み、温度不均一など)を特定する。そして、P-Q²線図などの工学的解析ツールを用いてゲートシステムを再設計し、再度シミュレーションを行うことで、改善効果を定量的に検証するという一連のプロセスが本研究の核心である。
5. 研究方法
研究デザイン:
シミュレーションに基づく、初期設計→分析→最適化→検証という反復的アプローチを採用。まず、連結ブラケットの3Dモデルと初期の鋳造方案(ゲート、オーバーフロー、鋳造条件)を定義。次に、Magma®ソフトウェアを用いて充填・凝固シミュレーションを実行し、結果を分析して問題点を特定。特定された問題に基づき、ゲートシステムの形状と寸法、およびオーバーフローの配置を修正した最適化案を立案。最後に、最適化案で再度シミュレーションを行い、初期設計と比較することで、その有効性を検証した。
データ収集・分析方法:
データ収集は、Magma®ソフトウェアによる数値シミュレーションを通じて行われた。分析対象のデータには、充填時間、溶湯温度分布、流速分布、圧力分布、空気巻き込み予測、凝固収縮ポロシティ予測などが含まれる。ゲート設計の合理性を評価するために、P-Q²線図を作成し、ダイカストマシンの能力と金型キャビティの要求性能との整合性を分析した。
研究対象と範囲:
研究対象は、新エネルギー車用電動モーターに使用されるA356.2アルミ合金製連結ブラケットである。研究範囲は、高圧ダイカストプロセスにおける溶湯の充填段階と凝固段階に限定される。特に、鋳造欠陥に直接影響を与えるゲートシステムとオーバーフローシステムの設計最適化に焦点を当てている。
6. 主要な結果:
主要な結果:
- 6つの均等なインゲートを持つ初期設計では、充填流量と速度にアンバランスが生じ、機能的に重要なエリアでガス巻き込みと収縮ポロシティが予測された。
- P-Q²線図分析により、初期のインゲート断面積が、要求される充填圧力と流量に対して最適ではないことが特定された。
- 特定のインゲート(例:2号インゲート)の形状変更と断面積拡大、および専用のオーバーフローの追加を含む最適化設計により、充填流量のバランスが効果的に改善された。
- 最適化プロセスのシミュレーションでは、溶湯合流地点における最大空気圧が3557.979 kPaから2302.127 kPaへと大幅に低下し、凝固時の温度プロファイルもより滑らかになり、欠陥リスクの低減が示された。
図の名称リスト:


- 图1 连接支架零件工艺区域划分及3D图
- 图2 连接支架压铸浇注系统和排溢系统初始设计
- 图3 连接支架压铸充型过程温度模拟
- 图4 压铸充型时裹气及缩松缺陷预测模拟
- 图5 改变内浇口形状后的优化方案图
- 图6 通过P-Q²关系曲线检查内浇口设计的合理性
- 图7 充型过程气压优化对比模拟图
- 图8 充型过程金属液和模具温度变化模拟图
7. 結論:
(1) アルミ合金製連結ブラケット部品のエリアごとに異なる肉厚形状は、溶湯の充填時における速度と流量の均一性を阻害した。そのため、初期設計の6つの均等なインゲートでは、各部位の凝固速度に大きな差が生じ、溶湯の合流地点でガス巻き込みや湯境欠陥が発生しやすかった。
(2) ブラケット鋳物の各エリアの異なる肉厚と構造に対応するため、差異化したインゲートを設計し、鋳物の局所的な充填流量と充填圧力の関係を変化させた。同時に、インゲート部にオーバーフローを追加することで、排気効果を高め、充填・凝固品質を改善することができた。
8. 参考文献:
- [引用形式:韩伟,卢健能,江丽珍,等.铝合金连接支架压铸数值模拟及工艺优化[J].特种铸造及有色合金,2025,45(5):718-722.]
- [HAN W, LU J N, JIANG L Z, et al. Numerical simulation and process optimization of die-casting aluminum alloy connection bracket[J]. Special Casting & Nonferrous Alloys, 2025, 45(5):718-722.]
専門家Q&A:技術的な疑問に答える
Q1: なぜこの部品を3つのプロセスエリア(A、B、C)に分割したのですか?
A1: この分割は、部品の構造的特徴と機能的要求に基づいています。Aエリアは薄肉のフレーム、Bエリアは後工程で機械加工が必要な高精度・高密度が要求される締結部、Cエリアは比較的均一な肉厚のフレーム部です。このようにエリアを分けることで、各エリアの異なる品質要求に対して、湯流れや凝固の挙動を個別に分析し、的を絞ったプロセス最適化を行うことが可能になりました。
Q2: 初期設計で湯流れのアンバランスが生じた主な原因は何ですか?
A2: 主な原因は、部品の不均一な肉厚と、それに対して6つのインゲートがすべて同じ断面積で設計されていた点にあります。薄肉部と厚肉部では溶湯の充填に必要な体積や流動抵抗が異なるため、均等なゲート設計では、流れやすい箇所に溶湯が集中し、流れにくい箇所(特に薄肉のAエリア)への充填が遅れ、全体としてアンバランスな充填プロセスとなっていました。
Q3: この最適化におけるP-Q²線図解析の重要性は何ですか?
A3: P-Q²線図は、ダイカストマシンの射出能力(圧力)と、金型キャビティを充填するために必要な流量の関係性を示します。この解析により、初期設計のインゲート断面積(2.35 cm²)が、最適なプロセスウィンドウから外れていることが判明しました。インゲート断面積を3.35 cm²に拡大することで、P-Q²線図上の動作点が最適な「プロセスウィンドウ」内に入り、安定した充填と高品質な鋳造を実現するための理論的な裏付けとなりました。
Q4: 2号インゲートの形状変更は、具体的にどのようにプロセスを改善したのですか?
A4: 2号インゲートは、主湯道との接続部が直角だったため、溶湯がキャビティに流入する際に噴流(ジェットフロー)が発生し、ガスを巻き込みやすい状態でした。これを滑らかな円弧状のカーブに変更し、さらに断面積を拡大して傾斜状の導入部にすることで、溶湯の流れを整え、負圧による空気の吸い込みやガス巻き込みを防止しました。これにより、よりスムーズで安定した充填が可能になりました。
Q5: 論文で言及されている「死角の閉じ込められガス」問題に、最適化設計はどのように対処しましたか?
A5: この問題は、特にAエリアの薄いフレーム部で発生が懸念されていました。最適化設計では、このエリアの湯流れを改善するためにゲート設計を調整するとともに、2号と3号インゲートの間にガスや初期の冷えた溶湯を排出するための専用のオーバーフローを追加しました。このオーバーフローが効果的なガス抜きポートとして機能し、「死角」にガスが閉じ込められる現象を防ぎました。
結論:より高い品質と生産性への道筋
複雑な形状を持つアルミダイカスト部品における湯流れのアンバランスとそれに伴う品質問題は、多くの製造現場が直面する課題です。本研究は、数値シミュレーションとP-Q²線図解析を組み合わせることで、この課題を科学的に解決できることを示しました。ゲートシステムの的確な最適化が、ガス巻き込みのリスクを劇的に低減し、内部品質を向上させるというブレークスルーは、アルミダイカストの品質と生産性を新たなレベルへと引き上げる可能性を秘めています。
CASTMANでは、最新の業界研究を応用し、お客様の生産性と品質向上を支援することをお約束します。本稿で議論された課題がお客様の事業目標と合致する場合、これらの原理をいかにお客様の部品に適用できるか、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。
著作権情報
このコンテンツは、[韩 伟, 卢 健能, 江 麗珍, 杨 安, 欧 俊杰] 氏による論文「铝合金连接支架压铸数值模拟及工艺优化」に基づく要約および分析です。
出典: [https://doi.org/10.15980/j.tzzz.T20240099]
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