この技術概要は、学術論文「アルミ合金減震塔的三种铸造工艺对比分析」(張友国、王雪峰、黄智鋼著)に基づいています。同論文は「鋳造 FOUNDRY 工艺技术」(2019年)に掲載されたものです。


キーワード
- 主要キーワード: アルミ合金製ショックタワー
- 副次キーワード: 投資鋳造、砂型鋳造、高真空ダイカスト、軽量化、機械的特性、SPR接合
エグゼクティブサマリー
- 課題: 電気自動車(EV)用の軽量・高性能なアルミ製ショックタワーを開発するには、性能、コスト、リードタイムのバランスを取りながら、各開発段階に適した鋳造プロセスを選択する必要があります。
- 手法: 本研究では、ショックタワーの製造において、投資鋳造、砂型鋳造、高真空ダイカストという3つの鋳造プロセスと、それぞれに対応するアルミニウム合金(ZL114A, AlSi7Mg, AlSi10MgMn)を比較分析しました。
- 主なブレークスルー: AlSi10MgMn合金を用いた高真空ダイカストが、最高の延性(伸び率14%超)とSPR接合の信頼性を実現し、量産に最適であることが明らかになりました。一方、砂型鋳造は試作段階においてバランスの取れたソリューションを提供します。
- 結論: 鋳造プロセスの選択は、機械的特性、特に伸び率に直接的な影響を与えます。この伸び率は、自動車ボディ構造におけるSPR接合の信頼性を左右する極めて重要な要素です。
課題:この研究がダイカスト専門家にとって重要な理由
電気自動車の航続距離延長への要求が高まる中、車体の軽量化は不可欠です。従来の鋼板製部品を一体成形のアルミ鋳造部品に置き換えることは、その強力な解決策の一つです。特にショックタワーは、複数の部品を統合することで大幅な軽量化と性能向上が期待できる重要部品です。
しかし、コンセプト設計(Mule車)からエンジニアリング検証(DV様車)、そして製品検証(PV様車)へと進む開発プロセスにおいて、各段階で求められる性能、コスト、納期は異なります。初期段階では設計変更の柔軟性と短納期が、量産段階では一貫した品質と高い生産性が求められます。どの鋳造プロセスが、どの開発段階で最適なのか?この問いに答えることが、効率的で信頼性の高い部品開発の鍵となります。
アプローチ:研究手法の解説
本研究では、ある純電気自動車向けアルミ合金製ショックタワーの開発プロセスにおいて、3つの異なる鋳造法を適用し、その結果を比較評価しました。
- 手法1:投資鋳造(ロストワックス法)
- プロセス: 低圧重力鋳造の一種。3Dプリントで製作したワックス模型を使用し、金型不要で迅速な試作が可能。
- 材料: ZL114Aアルミニウム合金。
- 特徴: 開発期間が短く、柔軟な設計変更に対応可能。初期のコンセプト検証(Mule車)段階で使用。
- 手法2:砂型鋳造
- プロセス: 低圧砂型鋳造。使い捨ての砂型を用いて複雑な形状を成形する。
- 材料: AlSi7Mg0.3アルミニウム合金。
- 特徴: 投資鋳造と同様に開発期間が短く、寸法安定性に優れる。エンジニアリング検証(DV様車)段階で使用。
- 手法3:高真空高圧ダイカスト(HVHPDC)
- プロセス: 50mbar以下の高真空環境下で、2700トンの高圧ダイカストマシンを用いて成形。
- 材料: AlSi10MgMnアルミニウム合金。
- 特徴: 製品の一貫性と生産効率が非常に高い。量産(PV様車)段階で使用。
ブレークスルー:主要な研究結果とデータ
発見1:機械的特性と微細組織の劇的な違い
3つのプロセスで製造されたショックタワーは、すべてT7熱処理が施された後、機械的特性が評価されました。表1のデータが示すように、プロセスによって特性は大きく異なります。
- 高真空ダイカスト(AlSi10MnMg): 引張強度は最も低いものの、平均伸び率は14.1%と最も高い値を示しました。
- 投資鋳造(ZL114A): 引張強度は最も高い一方、平均伸び率は6.5%と最も低く、量産要件を満たせませんでした。
- 砂型鋳造(AlSi7Mg): 強度、伸び率ともに中間の値(平均11.9%)を示しました。
この差は、図5の微細組織写真から説明できます。高真空ダイカストは金型による急速冷却のため、結晶粒が最も微細で均一な組織を形成します。これが高い延性(伸び)の要因です。一方、投資鋳造は冷却速度が最も遅く、粗大な結晶粒が形成され、延性が低下します。
発見2:接合性能(SPR)における伸び率の決定的な役割
アルミ車体の組み立てには、セルフピアシングリベット(SPR)接合が広く用いられます。この接合の信頼性は、母材の延性に大きく依存します。
- 投資鋳造品: 図7(a)に示すように、伸び率が低いためSPR接合時に亀裂が発生し、接合要件を満たせませんでした。
- 砂型鋳造品: ほとんどの接合は成功しましたが、一部の組み合わせでは要件を満たせませんでした(表5)。
- 高真空ダイカスト品: 高い伸び率により、すべてのSPR接合試験で亀裂などの欠陥は見られず、完全に要件を満たしました。
この結果は、部品の機械的特性、特に10%以上の伸び率が、SPR接合の品質を保証するための絶対条件であることを明確に示しています。
研究開発および製造現場への実践的示唆
- プロセスエンジニア向け: SPR接合を要する構造部品には、10%以上の伸び率が不可欠です。量産においては、この特性を安定して達成できる高真空ダイカストが最適なプロセスと言えます。
- 品質管理チーム向け: 図5の微細組織観察と表1の引張試験データは、SPR接合品質を予測する上で重要な指標となります。微細で均一な結晶粒組織が、良好な接合性を保証します。
- 設計エンジニア向け: 鋳造プロセスは、達成可能な機械的特性とそれに続く接合方法を決定づけるため、設計の初期段階で考慮すべきです。量産設計でSPR接合を前提とする場合、高い伸び率を保証する高真空ダイカストなどのプロセスを指定することが重要です。
論文詳細
アルミ合金減震塔的三种铸造工艺对比分析
1. 概要:
- タイトル: アルミ合金減震塔的三种铸造工艺对比分析 (アルミ合金製ショックタワーの3種の鋳造プロセスの比較分析)
- 著者: 張友国¹, 王雪峰¹, 黄智鋼²
- 発表年: 2019年
- 掲載誌/学会: 鋳造 FOUNDRY 工艺技术, Vol.68 No.10
- キーワード: 铝合金 (アルミニウム合金); 熔模铸造 (投資鋳造); 砂型铸造 (砂型鋳造); 高真空高压铸造 (高真空高圧鋳造); 减震塔 (ショックタワー)
2. 抄録:
本稿では、アルミ合金製ショックタワーの正開発検証過程で使用された、投資鋳造、砂型鋳造、および真空高圧鋳造の3つの異なる鋳造プロセスを紹介する。これら3つの鋳造プロセスと対応する材料で鋳造された部品の微細組織、機械的性能、および接合性能における差異を比較分析した。最後に、実際の生産使用過程における応用状況に基づき、3つの鋳造プロセスの長所と短所を総括した。
3. 序論:
純電気自動車において、バッテリー等の新部品は重量を増加させ、安全性への要求も従来のガソリン車より高い。消費者の嗜好と政府の補助金政策は、航続距離の増加を自動車メーカーに求めている。軽量化材料の使用は、電費経済性を向上させるための主要な選択肢となっている。アルミニウム合金は、その軽量性とコストのバランスから、EVの車体やシャシー部品に広く応用されている。一体型アルミ鋳造ショックタワーは、従来の複数の鋼板部品を単一部品に集約することで、軽量化効果が顕著であり、寸法精度と性能の向上にも寄与する。本稿で扱うショックタワーは、コンセプト設計のMule車から、エンジニアリング検証のDV様車、製品検証のPV様車へと、3つの開発段階を経ており、各段階で異なる鋳造プロセスが用いられた。本研究は、これらのプロセスを比較分析することを目的とする。
4. 研究の概要:
研究トピックの背景:
電気自動車の普及に伴い、航続距離向上のための車体軽量化が急務となっている。アルミ合金鋳物は、特にショックタワーのような複雑な構造部品において、軽量化と性能向上を両立させる有効な手段として注目されている。
先行研究の状況:
国内外でアルミ合金製ショックタワーの応用は進んでいるが、学術的な研究は少ない。宝馬(BMW)社が高真空ダイカスト製ショックタワーで40%の軽量化を達成した例や、真空ダイカストが鋳造欠陥を低減する有効な手段であることは広く知られている。
研究の目的:
ショックタワーの正開発プロセス(コンセプトから量産まで)で採用された3つの鋳造法(投資鋳造、砂型鋳造、高真空高圧鋳造)を比較し、それぞれのプロセスと材料が部品の微細組織、機械的特性、接合性能に与える影響を明らかにすること。これにより、開発段階に応じた最適なプロセスの選定指針を提示する。
研究の核心:
同一形状のショックタワーを、3つの異なる鋳造プロセスと材料(投資鋳造+ZL114A、砂型鋳造+AlSi7Mg、高真空ダイカスト+AlSi10MnMg)で製造し、それらのサンプルに対して、引張試験、微細組織観察、X線検査、および接合(圧入ナット、SPR)性能評価を実施し、総合的に比較分析した。
5. 研究方法
研究デザイン:
特定の部品(ショックタワー)を対象に、3つの異なる鋳造プロセスとそれに対応する材料の比較研究。
データ収集・分析方法:
- 鋳造プロセス:
- 投資鋳造: 低圧重力鋳造、材料はZL114A。
- 砂型鋳造: 低圧砂型鋳造、材料はAlSi7Mg0.3。
- 高真空高圧鋳造: 2700tダイカストマシン、真空度50mbar以下、材料はAlSi10MgMn。
- 試験・分析:
- 熱処理: 全てのサンプルにT7熱処理(溶体化処理+人工時効)を実施。
- 引張試験: ISO 6892-1/DIN 50125に準拠。各部品の上・中・下の3箇所から試験片を採取。
- 微細組織観察: 走査型電子顕微鏡(SEM)による観察。
- X線検査: ASTM E505規格に準拠し、内部欠陥を評価。
- 接合試験: M8圧入ナットの押し抜き力と最大トルクを測定。SPR(セルフピアシングリベット)接合の外観観察と断面破壊検査を実施。
研究対象と範囲:
自動車開発におけるコンセプト設計(Mule)、エンジニアリング検証(DV)、製品検証(PV)の3段階を対象とし、各段階で用いられる鋳造プロセスの技術的・経済的側面を評価する。
6. 主な結果:
主な結果:
- 機械的特性: 高真空ダイカスト品(AlSi10MnMg)は、平均伸び率が14.1%と最も高く、延性に優れていた。一方、投資鋳造品(ZL114A)は、平均伸び率が6.5%と最も低かった。砂型鋳造品(AlSi7Mg)は11.9%で中間の値を示した(表1)。
- 微細組織: 冷却速度が最も速い高真空ダイカスト品は、最も微細で均一な球状のα-Al相組織を示した。一方、冷却が最も遅い投資鋳造品は、粗大な結晶粒組織となった(図5)。
- SPR接合性能: 伸び率が10%未満の投資鋳造品は、SPR接合時に亀裂が発生した。一方、高い伸び率を持つ高真空ダイカスト品は、全てのSPR接合組み合わせで良好な結果を示し、欠陥は認められなかった(表5、図7)。
- 内部品質と圧入ナット接合: 3つのプロセスで製造された部品は、いずれも重要領域におけるX線検査の基準(気孔率1%以内)を満たし、圧入ナットの接合強度も設計要件を満足した。
図の名称リスト:



- 图1 传统钢减震塔和铸铝减震塔结构及重量对比
- 图2 铸铝减震塔从TG0、TG1到TG2的开发设计过程演变
- 图3 铸铝减震塔1#、2#、3#三处取样位置
- 图4 三种铸造工艺减震塔在三个不同位置的试片应力应变曲线
- 图5 三种铸造工艺减震塔的微观组织对比
- 图6 三种铸造工艺减震塔顶部区域的X光检测对比
- 图7 三种铸造工艺减震塔的SPR连接外观图
- 图8 三种铸造工艺减震塔不同SPR连接组合的剖检图
7. 結論:
- 引張試験、SPR断面検査、微細組織の比較から、部品サンプルの結晶粒の大きさが伸び率に影響し、伸び率がSPR接合の効果を決定することが分かった。伸び率が高いほど、SPR接合の信頼性も高くなる。伸び率が10%未満の鋳物では、SPR接合時に亀裂が発生するリスクがある。
- 異なる材料とプロセスの選択は、アルミ鋳物の微細組織と性能に影響を与える。新規アルミ鋳物の正開発プロジェクトにおいて、少量試作段階では砂型鋳造+AlSi7Mgを優先的に使用すべきである。投資鋳造+ZL114Aの鋳物を使用する場合は、接合にFDSや溶接を用いることで解決できる(FDSや溶接は材料の伸び率に対する要求が比較的小さいため)。大量生産時には、金属型+AlSi10MnMg鋳物の使用を推奨する。これにより、性能、コスト、開発期間などをバランスさせ、プロジェクト開発の要求を満たすことができる。
- 異なるプロセス材料の性能に基づき、量産車に搭載されるアルミ鋳造ショックタワーの性能を次のように定義する:降伏強度Rp0.2 > 120 MPa、引張強度Rm > 180 MPa、伸び率 > 10%。
8. 参考文献:
- [1] 汪学阳, 黄志垣, 廖仲杰, 等.高真空压铸铝合金减震塔工艺开发及应用[J]. 特种铸造及有色合金, 2018, 38(8): 860-863.
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- [4] WO L A. Vacuum die casting: Its benefits and guidelines [C] //Transactions of 16th International NADCA Congress and Exposition, Paper No.T91-071, Detroit, MI, USA, 1991.
- [5] JOHANN E. Vacuum die casting technology for automotive components [C] //Ohio: NADCA, 2006: T06-62.
- [6] 杨斌. 3D打印技术在熔模精密铸造样件上的应用研究[D]. 镇江: 江苏大学, 2018.
- [7] 阮明, 刘海峰, 姚红, 等. 大型薄壁铝合金减震塔砂型铸造技术研究[J]. 铸造, 2017, 66(4): 327-331, 336.
- [8] 陈正周, 宋朝辉, 王菊清. 薄壁多筋铝合金腔体低压铸造工艺[J]. 铸造, 2019, 68(6): 613-617.
- [9] 朱必武. AlSi10MnMg薄壁铝合金件压铸流动行为及其组织力学性能[D]. 长沙: 湖南大学, 2013.
- [10]陈瑞, 许庆彦, 郭会廷, 等. Al-7Si-Mg铸造铝合金拉伸过程应力-应变曲线和力学性能的模拟[J]. 铸造, 2016, 65(8): 737-743.
専門家Q&A:技術的な疑問に答える
Q1: なぜ全てのサンプルにT7熱処理を施したのですか?
A1: 本研究の目的の一つは、異なる鋳造プロセスが最終製品の性能にどう影響するかを比較することです。T7熱処理は、延性を向上させ、寸法安定性を確保するために一般的に行われる処理です。全てのサンプルに同一の熱処理を施すことで、性能差の原因を鋳造プロセスと材料そのものに絞り込み、公正な比較を可能にするためです。
Q2: 高真空ダイカスト品は引張強度が最も低かったにもかかわらず、なぜ量産に最適と結論付けられたのですか?
A2: 量産される車体構造部品にとって、個々の強度も重要ですが、部品同士を確実に接合できる性能はそれ以上に重要です。このショックタワーではSPR接合が前提となっており、そのためには高い延性(伸び率)が不可欠です。高真空ダイカスト品は、強度は設計要件を満たしつつ、14%を超える最高の伸び率を示し、SPR接合の信頼性を唯一完全に保証できたため、量産に最適と判断されました。
Q3: 3つのプロセスで微細組織に大きな差が生まれた原因は何ですか?
A3: 主な原因は「冷却速度」の違いです。高真空ダイカストは水冷された金型を使用するため、溶融金属が極めて急速に冷却され、微細な結晶粒が形成されます。一方、砂型は断熱性が高いため冷却が遅く、投資鋳造で用いるセラミックシェルはさらに冷却が遅いため、結晶が大きく成長する時間があり、結果として粗大な組織になります。
Q4: 論文で言及されているTG0からTG2への開発プロセスとは何を意味しますか?
A4: これらは設計の改良段階を示しています。TG0は初期のコンセプトデザイン、TG1はそれを改良したエンジニアリング検証モデル、そしてTG2が最終的な量産仕様デザインです。各段階で、車両レイアウト、安全性能、製造性などを考慮した最適化が行われ、それに伴い製造プロセスも試作向けから量産向けへと移行しています。
Q5: 伸び率の低い投資鋳造品を接合するのに、SPR以外の代替手段はありますか?
A5: はい、論文では代替案としてFDS(フロードリルスクリュー)や溶接が挙げられています。これらの接合方法は、母材を大きく変形させることなく接合するため、SPRほど高い伸び率を要求しません。したがって、開発の初期段階で投資鋳造品を使用する際には、これらの接合方法を検討することが有効です。
結論:高品質と高生産性への道を拓く
本研究は、アルミ合金製ショックタワーのような重要構造部品の開発において、鋳造プロセスの選択が最終製品の性能、特に接合品質をいかに左右するかを明確に示しました。特に、SPR接合を用いる量産部品には、高真空ダイカストがもたらす高い延性が不可欠であるという知見は、今後の部品開発における重要な指針となります。
CASTMANでは、こうした最新の業界研究を応用し、お客様の生産性と品質の向上を支援することをお約束します。本稿で議論された課題がお客様の目標と合致する場合、ぜひ当社のエンジニアリングチームにご相談ください。これらの原理を貴社の部品にどう実装できるか、共に探求してまいります。
著作権情報
このコンテンツは、論文「アルミ合金減震塔的三种铸造工艺对比分析」(著者:張友国、王雪峰、黄智鋼)に基づく要約および分析です。
出典: 10.3969/j.issn.1001-4977.2019.10.001
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