銅製回転子バー材を用いた損失調査のための0.5 HP回転機のモデリングとシミュレーション

本論文概要は、[タイトル: 銅製回転子バー材を用いた損失調査のための0.5 HP回転機のモデリングとシミュレーション]と題された論文に基づき、[出版: Australian Journal of Basic and Applied Sciences]に掲載された論文を要約したものです。

Fig. 3: 2D view of Stator & Stator Bars, Rotor & Rotor Bars and Air Gap.
Fig. 3: 2D view of Stator & Stator Bars, Rotor & Rotor Bars and Air Gap.

1. 概要:

  • タイトル: 銅製回転子バー材を用いた損失調査のための0.5 HP回転機のモデリングとシミュレーション (Modeling and Simulation of 0.5 HP Rotating Machine for the Investigation of Losses by Using Copper as Rotor Bar Material)
  • 著者: I. Daut, N. Gomesh, Y. Yanawati, M. Irwanto, S. Nor Shafiqin, Y.M. Irwan
  • 発行年: 2011年
  • 発行ジャーナル/学会: Australian Journal of Basic and Applied Sciences, 5(12): 179-188, 2011
  • キーワード: 誘導電動機 (Induction Motor), シミュレーション (Simulation), 損失 (Losses), 効率 (Efficiency), 銅 (Copper), アルミニウム (Aluminium)

2. 抄録:

本論文では、0.5HP三相AC誘導電動機を調査・解析した。本プロジェクトを通じて、誘導電動機をAutoCADソフトウェアで設計し、FEMソフトウェアを用いてシミュレーションを行った。その後、従来使用されていた回転子バーと比較した。比較の最初の段階では、同じ0.5HPの固定子スロット設計と巻線構成において、アルミニウム製回転子バーと銅製回転子バーを持つ誘導電動機をモデリングし、FEMシミュレーションを行った。シミュレーション結果は、電力損失、磁束密度、磁界強度、渦電流密度、トルク対速度、トルク対スリップ、電力損失対速度、電力損失対スリップの観点から比較された。ソフトウェアシミュレーションの全体的な実験結果から、アルミニウム製と銅製の回転子バーの磁束密度(B)の解析において、電気伝導率が高いほど材料の抵抗率が低くなることが示された。これは、銅製の回転子バーがインピーダンスが低く、したがって損失が少ないことを意味する。全体の解析は、銅製材料の回転子バーの使用に対していくつかの良い利点を示している。

3. 序論:

マレーシア企業の産業エネルギー使用量の分析に基づくと、電気モーターが最も多くのエネルギー(47%)を使用しており、次いでポンプ(14%)、エアコンプレッサー(9%)、空調システム(7%)、工作機械(6%)、照明(6%)、天井クレーン(3%)、換気(2%)、炉(1%)、コンベヤーシステム(1%)、ボイラー(1%)、冷凍システム(1%)、その他の機器(4%)となっていることがわかった (Saidur, R., 2009)。産業界のモーターの大部分は誘導電動機である。現場で既存の誘導電動機を試験したいという要望には、旧式または摩耗したモーターを新しいものと交換することを検討したり、巻き直し後の効率を確認したりするなど、さまざまな理由があるかもしれない。特に、モーターの出力は検出が難しい。したがって、確立された手順の1つは、損失を測定し、入力から差し引いて出力を求めることによって効率を計算することである (Chapman, S.J., 2005)。

誘導電動機は、広範な用途を持つ重要な電気機械の一種である。今日使用されている産業用モーターの85%以上が、実際には誘導電動機である。誘導電動機は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するために、ほとんどの産業用途で使用される複雑な電気機械装置である。三相誘導電動機は、構造が簡単で堅牢、低価格で保守が容易なため使用される。それらは、無負荷から全負荷までほぼ一定の速度で動作する (Theodore, W., 2006)。

一般に、機械の損失は計算または測定によって推定できるが、電気機械の性質上、損失を高精度で予測することはほとんど不可能である。AC誘導電動機の損失は、5つのカテゴリに分類できる。最初の5つの損失成分は、固定子銅損、回転子銅損、鉄損、漂遊負荷損、および無負荷試験と拘束回転子試験から得られる機械損である。銅損は、固定子抵抗、スリップ、および入力電力の測定に基づいて決定される。5番目の損失成分は漂遊損として知られている。実際、「漂遊損」という用語は、予測された損失と測定された損失の間の不一致のために生まれた。損失の正確な測定はそれ自体多くの困難を伴うが、測定された入力電力と出力電力の差、損失成分の分離測定、および損失の影響の測定といういくつかの方法でアプローチできる (Turner, D.R., 1991)。固定子および回転子銅損PRは、最大の割合を占める。どちらも高調波の存在によって影響を受ける。固定子巻線内で何が起こるかは直接測定可能であるが、回転子内で何が起こるかはそうではない。鉄損またはコア損は周波数に依存する。これは、無負荷運転試験中に測定されたデータから、標準試験手順(IEEE規格112 Bを参照)で決定される。これらの損失は効率に影響を与える可能性があり、高品質の材料を使用すること、および設計を最適化することによって低減できる。

本研究の目的は、銅とアルミニウムという異なる回転子バー材料を使用してAC誘導電動機の損失を調査し、両方の回転子材料における誘導電動機の効率と性能を得ることである。本研究の目的は、以下のように要約できる。

4. 研究の概要:

研究トピックの背景:

誘導電動機の効率は損失の割合に依存する。電気機械では、鉄損は全損失の20〜25%、銅損は15〜30%を占める。電気機械における損失のかなりの部分は鉄心での損失である。電気機械における鉄損の計算は、通常、機械で使用される鉄心材料の実験的特性に基づいている。誘導電動機の効率は近年非常に議論されている。世界中で異なる規格が使用されているため、実際の製造業者の数値を比較することは困難である。エネルギー効率の高い電気モーターは、世界中で費用対効果の高い電力節約のための最大の機会の1つを一般的に示している。誘導電動機の効率は、固定子銅損、回転子損、鉄損、機械損、漂遊負荷損などのモーター損失の量に依存する。これらの損失を減らすことができれば、モーターの効率を向上させ、エネルギー消費を削減できる。電気機械の効率の向上は、特に小型モーターの範囲において、誘導電動機の製造における主な問題である。

過去の研究の状況:

電気機械における鉄損の計算は、通常、機械で使用される鉄心材料の実験的特性に基づいている。世界中で異なる規格が使用されているため、製造業者の効率数値を実際に比較することは困難である。エネルギー効率の高い電気モーターは、世界中で費用対効果の高い電力節約のための最大の機会の1つを一般的に示している。

研究の目的:

本研究の目的は、銅とアルミニウムという異なる回転子バー材料を使用してAC誘導電動機の損失を調査し、両方の回転子材料における誘導電動機の効率と性能を得ることである。

主要な研究:

本研究では、AutoCADで0.5HP三相AC誘導電動機を設計し、FEMソフトウェアを用いてアルミニウム製と銅製の回転子バーの両方でその性能をシミュレーションした。シミュレーション結果は、電力損失、磁束密度、磁界強度、渦電流密度、トルク対速度、トルク対スリップ、電力損失対速度、電力損失対スリップの観点から比較された。

5. 研究方法

研究デザイン:

本研究では、シミュレーションに基づいた比較研究を採用している。0.5HP三相AC誘導電動機を設計し、FEMソフトウェアで2つの仮想モデルを作成した。これらのモデルは、回転子バーの材料(アルミニウムと銅)のみが異なる。両方のモデルに対して定常状態AC解析を実施した。

データ収集と分析方法:

FEMソフトウェア(Opera 2Dバージョン12.0)を使用して、両方の回転子バー材料を持つ誘導電動機の電磁挙動をシミュレーションした。ソフトウェアは、磁気ポテンシャル線(POT)、渦電流密度(J²)、磁束密度(Bmod)、磁界強度(Hmod)、トルク、速度、スリップ、および電力損失に関するデータを計算して提供する。次に、シミュレーションデータをエクスポートして分析し、アルミニウム製と銅製の回転子バーを持つモーターの性能を比較する。

研究トピックと範囲:

本研究は、0.5 HP、415V、1.02Aの誘導電動機に焦点を当てており、力率は0.74、同期速度(n<0xE2><0x82><0x98>)は1500rpm、供給周波数は50Hz、極数は4である。固定子は36個のスロットを持ち、回転子は24個のスロットを持つ。本研究では、回転子バーの材料(アルミニウム対銅)が、さまざまな性能パラメータと損失に与える影響を調査する。

6. 主な結果:

主な結果:

  • 磁束密度 (B): 銅製回転子バーはアルミニウム製回転子バー(1.36テスラ)と比較して低い磁束密度(1.34テスラ)を示し、アルミニウム(3.77 × 10⁷ S.m⁻¹)と比較して銅(5.8 × 10⁷ Sm⁻¹)の電気伝導率が高いため、インピーダンスが低く、したがって損失が少ないことを示している。
  • 磁気ポテンシャル線 (POT): 銅製回転子バーの方が磁極分布が均一であり、ヒステリシス損失が少ないことが示唆される。また、銅製回転子バーはアルミニウム製と比較して磁束漏れが少ない。
  • 渦電流密度: 50Hzにおいて、銅製回転子バーはアルミニウム製回転子バーよりも渦電流密度が低く、損失の減少につながる。
  • トルク対速度: アルミニウムの始動トルクは2.09 N-mであり、銅の場合は1.63 N-mである。最大トルク(ブレークダウン トルク)は両材料とも4.8 N-mであるが、銅製回転子バーのトルクはアルミニウム製よりも早く低下する。
  • トルク対スリップ: スリップが0.05の場合、銅製回転子バー(2.5 N-m)のトルクはアルミニウム製回転子バー(1.7 N-m)よりも高い。
  • 電力損失対スリップ: スリップが0.05の場合、アルミニウムの電力損失は5.45W、銅の場合は7.72Wである。しかし、スリップが0.2を超えると、アルミニウムの損失は劇的に増加するのに対し、銅の損失はより安定して増加する。
  • 電力損失対速度: 始動時(0 rpm)において、銅製回転子バーの電力損失(130.44W)はアルミニウム製回転子バー(157.23W)よりも低い。損失は速度の上昇とともに減少し、1200 rpm以降では、銅の損失はアルミニウムの損失よりも線形かつ速く減少する。
Fig. 1: Induction Motor Stator and Rotor Design Specifications.
Fig. 1: Induction Motor Stator and Rotor Design Specifications.
Fig. 2: Rotor Bar type of Half Rotor Slot for Opera 2D.
Fig. 2: Rotor Bar type of Half Rotor Slot for Opera 2D.
Fig. 4: B-H Curve of the Copper and Aluminium Materials.
Fig. 4: B-H Curve of the Copper and Aluminium Materials.
Fig. 6: Magnetic Line Potential based at 50 Hz.
Fig. 6: Magnetic Line Potential based at 50 Hz.
Fig. 9: Magnetic Flux Density of Rotor Bar at 50 Hz.
Fig. 9: Magnetic Flux Density of Rotor Bar at 50 Hz.
Table 3: Data from Steady State AC Analysis.
Table 3: Data from Steady State AC Analysis.
Fig. 11: Torque vs. Speed of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 11: Torque vs. Speed of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 12: Torque vs. Slip comparison of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 12: Torque vs. Slip comparison of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 13: Power Loss vs. Slip of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 13: Power Loss vs. Slip of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 14: Power Loss vs. Speed (r.p.m) of Aluminum & Copper Rotor bar.
Fig. 14: Power Loss vs. Speed (r.p.m) of Aluminum & Copper Rotor bar.

図表リスト:

  • Fig. 1: 誘導電動機の固定子と回転子の設計仕様 (Induction Motor Stator and Rotor Design Specifications)
  • Fig. 2: Opera 2D用ハーフ回転子スロットの回転子バータイプ (Rotor Bar type of Half Rotor Slot for Opera 2D)
  • Fig. 3: 固定子と固定子バー、回転子と回転子バー、エアギャップの2Dビュー (2D view of Stator & Stator Bars, Rotor & Rotor Bars and Air Gap)
  • Fig. 4: 銅とアルミニウム材料のB-H曲線 (B-H Curve of the Copper and Aluminium Materials)
  • Fig. 5: 誘導電動機のハーフポールAutoCAD設計 (Half Pole AutoCAD Design of the Induction Motor)
  • Fig. 6: 50 Hzにおける磁気ポテンシャル線 (Magnetic Line Potential based at 50 Hz)
  • Fig. 7: 50 Hzにおける色分けされたゾーンに基づく磁気ポテンシャル線 (Magnetic Line Potential based on Colored Zone at 50 Hz)
  • Fig. 8: 50 Hzにおける回転子バーの渦電流密度 (Eddy Current Density of Rotor Bar at 50 Hz)
  • Fig. 9: 50 Hzにおける回転子バーの磁束密度 (Magnetic Flux Density of Rotor Bar at 50 Hz)
  • Fig. 10: 50 Hzにおける回転子バーの磁界強度 (Magnetic Field Strength of Rotor Bar at 50 Hz)
  • Fig. 11: アルミニウム製と銅製回転子バーのトルク対速度 (Torque vs. Speed of Aluminum & Copper Rotor bar)
  • Fig. 12: アルミニウム製と銅製回転子バーのトルク対スリップの比較 (Torque vs. Slip comparison of Aluminum & Copper Rotor bar)
  • Fig. 13: アルミニウム製と銅製回転子バーの電力損失対スリップ (Power Loss vs. Slip of Aluminum & Copper Rotor bar)
  • Fig. 14: アルミニウム製と銅製回転子バーの電力損失対速度 (r.p.m) (Power Loss vs. Speed (r.p.m) of Aluminum & Copper Rotor bar)

7. 結論:

モデリングとFEMシミュレーションの結果から、0.5 HP誘導電動機の回転子バー材料として銅を使用することは、アルミニウムと比較していくつかの利点があることが示された。銅の高い電気伝導率は、より低い抵抗率、より低いインピーダンス、そして結果としてより低い損失につながる。銅製回転子バーは、より均一な磁極分布、より低い渦電流密度、およびより優れた磁束密度特性を示し、これにより鉄損を低減できる。始動トルクは銅の方がわずかに低いものの、通常の動作スリップにおけるトルクは高く、トルクの低下が速いため、過負荷状態でのモーターの過熱を防ぐことができる。電力損失の分析では、銅製回転子バーは、始動時および高速条件下でアルミニウム製よりも損失が少ないことが示されている。全体として、本研究は、損失を低減し、誘導電動機の性能を向上させるという点で、銅が回転子バーにとってより優れた材料であることを示唆している。

8. 参考文献:

  • Chapman, S.J., 2005. Electric machinery fundamentals (4th ed). New York: McGraw-Hill.
  • Saidur, R., N.A. Rahim, H.H. Masjuki, S. Mekhilef, H.W. Ping and M.F. Jamaluddin, 2009. "End-use energy analysis in the Malaysian industrial sector". Energy, 34(2): 153-158.
  • Theodore, W., 2006. Electrical machines, drives and power systems (6th ed). New Jersey: Pearson Prentice Hall.
  • Turner, D.R., K.J. Binns, B.N. Shamsadeen and D.F. Warne, 1991. “Accurate measurement of induction motor losses using balance calorimeter". Electric Power Applications, IEE Proceedings, 138(5): 233-242.

9. 著作権:

  • 本資料は、「I. Daut, N. Gomesh, Y. Yanawati, M. Irwanto, S. Nor Shafiqin, Y.M. Irwan」による論文です。「Modeling and Simulation of 0.5 HP Rotating Machine for the Investigation of Losses by Using Copper as Rotor Bar Material」に基づいています。
  • 論文の出典: https://www.researchgate.net/publication/265542791

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